呼ぶ人

医療関係で働いていた頃、その館内では命を落とす者もいる。

しかしそれがあまりに突然だったら、気づかずに居るのかもしれない。


老人介護にも関わっていた私は、デイケア部署で

通ってくる方たちと遊んだり歌ったり、

とにかく楽しく過ごしていただく仕事もしていた。


明日、デイケア部署で月に一度のお楽しみ会があるので、

部署内の装飾を依頼されて、残業になっていた。


お楽しみ会では、数日前に通所されることになった

Aさんのお誕生会も兼ねていた。

Aさんはとても気難しい男性の方で、誰が話しかけても

一切耳を貸さず、ここには直ぐに来なくなる、

こんな幼稚園みたいなところ冗談じゃない・・・

といつも怒っていたのですが、私が桃太郎の朗読を、

全てのキャラの声を変えて、時折スタッフの真似を入れてやったところ、

Aさんが噴き出して大笑い、それ以来

私には心を許してくれたように感じていた。

実際何をするにも必ず私を『オーイ!オーイ!』と

呼ぶようになったのです。

嬉しいけれど、正直毎日通われるAさんに朝から晩までオーイ!オーイ!は

しんどいものはありました、家に帰っても呼んでる気がするほどです。

まぁそれでも気を許すようになってくれたし、

他のスタッフの言う事も聞いてくれるようになってくれたし、

良い事の方が多いからいいか・・・・と思っていた。

その方の誕生会なので、思い入れもありましたし。


脚立に上って作業していると


『オー・・・・イ・・・オーーーー・・・・ぃ』


『あれ?Aさん?』

たまに入所でお泊りするけれど、今はステイ期間じゃない。

確かに帰った、見送りもした。


『オーイ!・・・オー・・・・ィ・・・』


変だな・・・・だんだん近づいて来てるようだけれど、

見当たらない・・・そんな広い部屋じゃないし、

申し訳ないけれど隠れるとかができるお身体ではない訳で。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!


『オーイ!オーイ!』


耳元で言われ私は脚立を飛び降りて部屋から出た。


飾り付けはある程度見栄え良く出来上がっていたので、

私は速攻で電気をパパパパン!と消し、施錠して帰った。


翌日、その話を主任にしていると電話が鳴った。


『ええ・・・はい・・・ええ・・わかりました、では・・・』


『主任・・・まさか・・・』


『うん・・・今朝、Aさんが部屋で亡くなってたそうよ・・・』

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