呼び出し

医療関係の仕事をしていた時の話です。


仕事中に体調を崩した私は休憩をいただき、

仮眠室で少し眠ることを許された。


その仮眠室は8畳くらいあっただろうか、

清掃部の詰所と言いますか、休憩所も兼ねていた。

丁度お昼時だったので、清掃の方が2名居たが、

『あらら大変、もう行くから寝なさい、ね。』

と優しい言葉をかけていただき、私は部屋の隅にある

簡素なパイプで出来たベッドに横になった。

マットレスの意味を成さない硬さだったが、

なにより横になれることが今は幸せだった。


体調の悪さは、お風呂介助を行ったので、

アツさでのぼせたのだと思う。


気を失うように私は睡眠と言う深い深い海溝に落ちた。


ガチャ!


『どうしました!?大丈夫ですか!?』


ナースが1人入ってきて私を起こした。


『どうかしたんですか?』

頭が半分眠っている状態で私が問う。


『ナースコールが鳴ったんで・・・その・・・』


『ナースコール?』


そう、この仮眠室はもともと病室だったのです。


押していない事を告げるとナースは戻った。


数分後、またナースが入ってきて

『押しましたよね?今度は押してますよね?

だってここ間違いなく222号室ですもの』


『だっても何もここ仮眠室だからナースコール無いのでは・・』


『え・・でも確かに・・・』


ガチャ・・・『わぁ!』『わぁ!』


『あ、ごめんビックリした?』

入ってきたのは施設管理のAさん。


『ナースコール鳴ったって聞いてさ、でもさ、

俺確かにここのナースコール撤去したの覚えてるんだよね…』


『鳴るはずが無いって事ですか?』


『あ、ほらやっぱり、見てよこれ』


そう言ってAさんが見せたのは、切断したコードの先に

ビニールテープをグルグル巻いたナースコールの残骸だった。


『これじゃ絶対鳴らないよ』

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