臭い

見える見えないより、臭いを感じる事はないだろうか。

残り香に似ているけれど、香水とかそういうのではなく、

例えばその人のバッグの臭い、服の臭い、家の臭い。

まぁ体臭と言えばそうなのかもですが、その人の臭いって

あるのわかりますかね・・・そういうお話です。


ある介護施設での朝、できる事を全てする時間がある。

例えば入浴後にドライヤーをかけてあげる為に、

ドレッサーに準備しておく、お風呂を待つ人たちの為に、

順番に座る椅子兼脱衣場の設立などなど、

デイケアと呼ばれる部署の朝は凄まじく忙しい。


だが要領のいいチームでまとまると、いわゆるダベる時間も出来る。

他愛もない話をしながら準備をしても間に合うからだ。


するとドライヤーがブオーーーーーーーーン!と動いた。

『え?なんで?』と言いながら看護師さんがスイッチを切る。


『Yさん来るからドライヤーも喜んでるんじゃないの?』

と主任が空気を変えるかのように言う。


Yさんは頭の体操時間にドライヤーを見せて

『これは何するモノ?』

と聞くと

『ブオーーーーン!』

と言う人だった。


『そうかもそうかも』

と言って笑っていると私はプ~ンと・・・

分かりますかね、今まで感じなかった臭いが瞬間的に

鼻に入って来る感覚・・・・

その臭いに気づいた。


『あ、Yさんの服の臭い・・・しません?しません?』


Yさんの服は何を着ても独特な防虫剤とカビが混じったような、

妙な臭いと言うか、鼻に残る臭いがするので、

送迎の際は嫌がる利用者さんも居る程だった。


『しないよ・・・くんくん・・・』


『しないね・・・うん・・・』


『ええ・・・えー!そうなんですか!ええ、はい・・・』


全員が電話を切る主任を見つめた・・・

朝イチに来る電話はほぼ吉報ではないからだ・・・・



『さっきの・・・教えに来たのかも・・・』


『え?もしかして・・・』



『今朝・・・亡くなってたって・・・』



『そうですか・・・』


『いやぁ!!!!!』

看護師さんが悲鳴を上げた。

看護師さんが指を差す方を見ると・・・・


先ほど動いたドライヤーは、

コンセントに挿されていなかった。

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