赤いカド

医療関係の仕事をした居た頃の話。


入所されている方々の食事をするホールがある。

そこは催し物をやる時にも使う場所なので、

凄い広さだ、どれくらいと言われると・・・


普通車をギッシリ50台入れられる駐車場くらい。


そこを日曜日の勤務の時は、リネン交換の為に横切る。

日曜の夕方だと誰も居なく薄暗くだだっぴろいそのホールは、

妙に薄気味悪かった。


台車に交換用の使用済みリネンを乗せ、

ガラガラとリネン室に向かうのだが、自動販売機のある角、

そこが赤く光って見えるのです。

炎がそこで燃えているのか?と一瞬思う程には赤い。

夕方とは言ったが夕焼けが差し込む時間ではない。

だがスタッフ誰一人として気にしている様子が無かった。


それが何度か続き、ある日の日曜日、

今度はその光の中に黒い人が居るのが見えた。

椅子に腰かけて、まるでメラメラと燃えているようだった。


怖いと言うよりは『なんだろう・・・』でした。


翌日、古くからこの医療機関にいる人に思い切って聞いてみた。


『あの自動販売機の前で何かこう・・・火事とか・・・ありました?』


するとその人は

『え?!何で知ってるの?前にね、マッチを持ち込んだ人が居てね、自動販売機の横に置いていた資材が燃えたのよ・・・』


『怪我人は出なかったんですか?』


『それがね、熱いも冷たいもわからないお爺ちゃんが、そこの席がお気に入りでね、着ていた半纏に火がついて・・・愛用していた半纏だったから毛羽立っててメラメラ燃えたそうよ、でもほら、感覚がないから・・・その・・・』


『叫ぶこともなく発見が遅れたとか?』


『んまぁそうとも言われてるし・・・詳しくは私もアレなんだけど、そんな事故があったらしくてね・・・・』


『そのお爺さんは・・・』


『亡くなったわ・・・死因は火事ではないらしいけど』


この人も聞いた話らしく、いつの話しかもわからない。

真実か否かのジャッジも当然ながら誰も出来ないし、

巡り巡ってここの医療機関の話ではないものが、

いつの間にか根付いた、持ち込まれた話である可能性もあるわけで。


ただ、死因がそれでないのなら・・・・

なぜ彼は今も燃えているのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る