ささやか過ぎる贈り物
明石竜
第1話
「ごちそうさまーっ。やっぱママの作ったロールキャベツは最高だよ」
「ありがとう直観(なおみ)、嬉しいわ。ところで、この間の実力テストの
結果、まだ返って来てないの?」
「うん、まだだよ」
夕食後、ママから不意に出された質問に私は冷静にそう答え、
そそくさ自分のお部屋へ向かいました。
(本当はとっくの昔に全教科返却されてるんだけどね……)
私は机の引き出しから五枚の答案用紙を取り出し、机の上に並べます。
(社会61、国語52、英語48、理科33、数学29なんて、とてもじゃないけど見せられないよう。
……パパとママは直観力のある賢い子になれるようにって名付けてくれたのに、
毎度ながら全然直観力が働いてないよぉ~)
自己成績のあまりの酷さにため息をつきました。
(去年の、一年生の時受けた実力テストもこんな感じだったな。ママにものすごい叱られて、
アニメ雑誌全部捨てられた悲しい思い出が甦るよ。今回の結果も、いずれはバレちゃうんだろな……
そうだ!)
私はふと、いいアイディアを閃きました。
☆
翌朝。
「ママ、今日は燃えるゴミの日でしょ。私が持っていってあげるよ」
「あら、気が利くわね。ありがとう直観、助かるわ。けっこう重たいから気をつけてね」
「うん。それじゃいってきまーっす!」
私はゴミ袋を手に持ち、意気揚々と家を出ました。
通学途中にあるゴミ集積所の前で足を止め、袋の口元をほどきます。そして
通学カバンから例の答案用紙を取り出して、くしゃくしゃに丸めました。
(これでもまだ、何かの拍子で点数丸見えになっちゃうかも。近所の人に見られ
たら大変だ。あれ使おう)
さらに厳重に機密を守るため、袋の中にあったキャベツの葉っぱに包み込んだのです。
○
夕方。
「ただいまー」
「おかえり直観。テスト、今日もまだなの?」
「うん。なんか学習到達度のデータ調査するために外部に提出するとかなんとか
言ってたから、当分の間返ってこないって先生が言ってたよ」
「そっか。残念だわ。あ、そうそう。直観に渡したいものがあるの。
今朝のお礼よ」
ママはとっても機嫌が良さそうです。ショッピングバッグからプレゼント箱を取り出して、
テーブルの上に置きました。
「わー、ありがとうママ。クッキー? チョコレート?」
「ふふふ、開けてからのお楽しみ♪」
私はわくわくしながら温かみのあるオレンジ色リボンをほどき、箱を開けました。
「あれ? これは……え!? なっ、なっ、なんで?」
私は我が目を疑いました。なんと私の、今朝捨てたはずの答案用紙がででーんと現れたのでございます。
「話せば少ーし長くなるんだけど、ママね、三宮の方へお買い物に行く途中、ゴミ捨て場の
ゴミを漁ってたイノシシさんにばったり出会ったの。ママが近づいたらサササッて逃げちゃった
けどね」
「……」
気が動転している私に向かって、ママはとても嬉しそうに語り始めました。
「それで、そのさい皺くちゃになった紙を落としていったのよ。テストの答案用紙みたいだったから、
なるべく見ないように袋の中に戻してあげようと思って拾ったんだけど、
芦田直観って書かれてあったのがついうっかり目に入っちゃって。なーんか見覚えあるお名前だなあって……」
「どっ、同姓同名の子なんじゃないかな」
私はとっさに口を挟みます。
「ママも最初そう思ったんだけど、学年クラス出席番号、さらに学校名までご丁寧に書かれてあって、
松影中学校って」
「わっ、私の学校だ……」
「松影中学校二年七組出席番号一番芦田直観さんって、あなた以外に誰がいるのかなー?
直観、これは一体どういうことかしらね? ママにくわしーく説明してほしいな。直観はと
ってもいい子だから、きっと正直に話してくれるわよねー」
ママは私にニカッと微笑みかけました。
「アッ、アハハハハハ」
私は笑って誤魔化します。このあと私がどうなったかは、読者の皆様でご想像下さいませ。
蛇足なのですが、最後に一言。燃えるゴミの日は明日でした。
ささやか過ぎる贈り物 明石竜 @Akashiryu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます