そして誰がいなくなった?─後編─
「あなたでしょ?ブシヨンさん」
頭だけ突き出ている女性は目を見開く。
他の2人驚いた表情を見せる。意外にも女性は冷静に問う。
「なぜ私だと思いますか?」
「私たちはここに来た時から不思議だったのよ。なぜこのシナリオなのかね」
「? シナリオ?」
「えぇ、具体的に教えてあげましょうか?」
女探偵は人差し指を上げる。
「なぜゆるキャラの中の人が加害者である可能性を排除しているのか」
それは俺も引っかかっていた。
「つまり、この男が元々ゆるキャラの中の人なのか、そうじゃないのか。という部分だな」
「そう、同じ加害者でも違ってくる。にも関わらずだ。君達は侵入してきた奴がゆるキャラの中の人を襲って、その後ゆるキャラになりすましている説を推す。なぜだろうね?」
女性のみが額に汗を垂らす。着ぐるみの暑さではないだろう。
「私たちはここに来る時に事情を聞いている。女性スタッフにね」
「まぁ、いいや。とりあえずその着ぐるみを脱いでもらいます」
「え!」叫んだのは俺だ。
「脱ぐのがイヤなら早くブツを出したらどう?」
女探偵の言い回しは俺の頭からいやらしい考えを払った。そういうことか。
「ブツってなんですか?」
ブシヨンの女性は何かを取ろうとするが、その手は空を切る。
「ん、あれ?」
「お探し物はこれですよね」
俺の横にいた助手はいつの間にか、ブシヨンの着ぐるみの頭部を持っていた。
「でかした。助手くん」
「返して!」
顔を青くして険しい表情で睨みつけてくる。
「おかしいですよね?頭の上から被って着脱する頭部にチャックが付いているのはなぜですか?」
「私は頭が小さいから入るんです!」
「そうですか、ならチャックを開けても問題ないですね」
助手がチャックを下ろすと、個包装になった白い粉が数袋出てきた。ワサビダラーとピラフジラフはギョッとして後ずさる。
「返せって言ってん───」
迫りくる女性を間に入り、俺は押さえた。なるほど、違法薬物の取り引きだったわけか。
「グッジョブ!」
女探偵と助手は親指を立てて達成感に満ちた顔を向けてくる。俺はボディーガードかこの野郎!
「これにて一件落着!」
* * *
「一件落着じゃないだろ」
俺は女探偵の横でツッコむ。「ムゥ」と女探偵は目を細めて唸る。
「でも、結果オーライでは……」
「女性スタッフも捕まったからよかったものの」
女探偵は頬を膨らませる。
「やっぱりいなくなってたか。本来、ブシヨンの中にいた女性は女性スタッフと入れ替わり逃げようとしたんだ」
「つまり、俺たちを連れてきた女性スタッフがブシヨンの中の人で、ブシヨンの中に入ってた人はスタッフだったってこと?」
「そゆこと」
「なんでそんなことを?」
「ブシヨンの中の人が売人とトラブって気絶させてしまったんだ。ちなみに売人は女性スタッフが隙を見て招き入れたに違いない」
女探偵はここで一度言葉を切り、続ける。
「ブシヨンとトラブル。殴るかなにかして気絶させてマズいと思った。そして閃いたのだ、これはチャンスだと」
なるほど、あとの展開が少しずつ読めてきた。
「ブシヨンは売人が持っていた薬物を全部没収。グルのスタッフに着ぐるみを着せて私たちに犯人当てをさせた」
あの女の私は犯人じゃないという自信はそこからか。
「ブシヨンの中の人を犯人にしようにも無理に決まってる。実際に襲った犯人は女性スタッフのフリをして逃げてるんだからな。他のやつが犯人にされれば儲けモン、てとこか」
「売人が起きたら一発アウトだろ」
「売人側も知らんぷりで通せるなら通すだろうさ」
確かにな。肝心のブツが無ければ、どのみち話にならなかっただろう。
「どの“詰み方”でいこうとも隠し場所を当てるのが手っ取り早かった。でもまぁ──」
助手の出すお茶にズゾゾと口をつける。
「どこに行こうとも罪は罪なんだ。逃げられやしないよ」
疲れた目で遠くを見ながら、再びお茶に口をつけた。
─────了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます