そして誰がいなくなった?─前編─

コレはどう言えばいいのか。

「どう見たって、オマエが犯人だワッサー!」

「違うヨン。断じて違うヨン」

「僕も違うキリン!」

 とある、ゆるキャラショーの裏の控えテント。

 顔はナチュラルメイク、髪はポニーテールで纏める女名探偵とその助手。そして私はうーむと唸っていた。


 三体のゆるキャラの前には1人の男が気絶して倒れていたのだから。


   *   *   *


 私は言った。

「これ、みんな脱いでもらえば一瞬で解決するんでは?」

「やだ、エッチ!」

 いち早く反応する女探偵に私はすぐ切り返す。

「違う、ゆるキャラさん達に言ってるんだよ」

「なにを脱ぐキリン?」

「え?だからこれを……」

 俺が武将のゆるキャラの後頭部のチャックに手を伸ばそうとすると思いっきりワサビのビンタがとんできた!

「我々はゆるキャラワサ!チャックなんてないワサ!」

「中に人なんていないヨン」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

 語気を強めに言う私にキリンのゆるキャラが返す。

「でも、真面目な話。中の人が出てきたところで分からないキリン。我々はこのカッコで中の人を判別できないし。みんな初めましてだキリン」

 俺はいきなり普通に答えてきたキリンにちょっと引いた。心なしか着ぐるみの表情も真顔に見えるぞ。

「話を整理しよう」

 そう言ったのは女探偵だ。助手がお茶を持ってきて、それをズゾゾと飲む。

「まず、この丘科市おかしなしのイベントに君たちが参加。君から名前をどうぞ」

「僕の名前はワサビダラーだワッサー!」

 大きく口を開けた鱈のマスコットがワサビを背負っている。さっきはそのワサビで殴られたのだが、まぁまぁ硬い。

「必殺技は“ワサビブレード”だワッサー!」

「ゆるキャラが必殺技を持ってていいのでしょうか?」

 冷静な助手のツッコミをスルーし、次に行く。

「私はピラフジラフだキリン。特技は中華料理だキリン」

 赤いチャイナ服を着たキリンのマスコットだ。俺は訊く。

「食べ物と動物をかけ合わせるのが流行ってんのか?」

「知らないキリン」と一蹴。

 最後に自己紹介したのは二頭身の人型の着ぐるみだ。武将の格好をしているが、だれをモチーフにしているんだ?

「拙者はブシヨンだヨン。必殺技は………」

 そこから考えるように固まる。

「無いなら言わなくても大丈夫ですよ」

 女探偵が助け舟を出した。

「今の時代、なにか一つ取り柄がないと厳しいワッサー」

「私も苦労したキリン」

 うんうんと頷くピラフジラフ。

「皆さん、この声は地声?」

「いや、ボイスチェンジャーを通してるキリン」

「では中の人が変わっても分からないワケね」

 三体とも頭を縦に振る。

「イベントでの前半の出番が終わり、テントに戻ってきた。各々がパーテーションで仕切られた個別のスペースに入って休憩していて、十分程して、個別のスペースから出てきたらここに男が倒れていたと」

 再び三体が頭を縦に振る。

「第一発見者はキリンさんであってる?」

「ピラフジラフだキリン」と話し始める。

「トイレに行こうとしたところ、出たら、いたんだ」

 ふんふん、私と助手は黙って聞いている。

「なるほど、あと二十分程で再び出番なのだががあり、困っていたところに私たちがイベントに来ていたのを見つけたと」

 突然、女性スタッフに呼ばれてステージ裏に連れてこられた時は怖かったものだ。俺はドキドキだったぞ。

「やっと名探偵の名が知れ渡ってきましたね!」

 喜ぶ助手に女探偵はフフッと少し笑う、俺は一応言っとく。

「探偵さんだけでいいだろ。なんで俺も巻き込む?」

「探偵と言えば助手。そして警察だろう?」

「非番なのだが?」

「そう固いこというなよ。こんな美少女と休日に出かけられるんだ」

 女探偵はウインクを俺に飛ばすと、話を戻す。

「では確認したいのですが、三体とも着ぐるみを脱いでもらえますか?」

「⁉︎⁉︎……なに?」とワサビダラーが戸惑う。

「別にお顔を拝見したいので上だけでも構いません」

「………?」

「そ、それは……」

 戸惑ってこちらを見る三体。いや、俺にどうしろと。

 女探偵は真面目な表情で言う。

「私の仮説が正しければ、これで全てが解決します。どうかお願いしたい」

 まぁ、そこまで言うならと渋々ながらも着ぐるみを脱ぎ始める。

 ワサビダラーは中から屈強な肉体のお兄さんが出てきた。汗が光る。

「これでいいっすか?」

「OKだよ」

 頭部を持ち上げてそのまま外したブシヨンからは若い女性が出てきた。

「あのー、中が汗だくなんであんまり脱ぎたくないんですけど」

 覗き出るシャツの首元が汗で透けてる。思わず生唾を飲む俺に、助手は蹴りを入れる。

「大丈夫です。というか女性だったんですね」

「身長的に私が適任だったので…」

 背中のチャックを下ろすのに手間取っていたピラフジラフからはオッサンが出てきた。見たところ歳は四十くらいか?

「フゥ、やっと脱げた」

 こちらも汗だくでタンクトップはほぼ透けていた。体型は少し太っていた。

「なるほど、なるほど。ふんふんふん」

「ホントにこれで何かわかるんですか?探偵さん?」

 少し考えるように顎に手を当て数秒。唐突に言う。


「あぁ、わかったよ。この男性を襲った犯人が」





──────後半へつづく




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