第121話 第六話 その9 意図は何?

「居た!でもなんか傷ついてない!?なんであんなにトロトロやってんのよ!?すばしっこいだけがアンタの取り柄でしょ!?」











「い!イズサーン!なんちゅうこっちゃあ!今度はでっかい青い奴かお!」


「ちゅ!ちゅん助!無事だったか!なんで戻ってきた!隠れてろ!」


「あかん!あかんお!なんとかしたるお!」

「いましばらく持ちこたえてクレメンス!」


「無理だ!皆のお陰でコイツのどうやら脚だけは止まってるがもう腕が痺れてきた…」


「頑張るんだお!おまえは100時間の残業やら違法な休日束縛待機命令にも生き抜いてきた男だろうお!」


「それとこれとはわけが違う…」


「なんとか!なんとか援軍を呼んでくる!頑張るんだお!」


「お前だってフラフラだろうが!いいから!共倒れになるぞ!」


「アホ言え!ここで何とかしなきゃ共倒れどころか全倒れやろが!」


「そうだが…お前には能力があるだろ!」


「とっくに打ち止めだお!くそう!なんか!?なんかないかお!?」


 ちゅん助が頭を抱えたまさにその時、灰色を凄まじい勢いで蹴散らして広場になだれ込んでくる一台の馬車があった。


「ゆ!勇者さま~!助けを呼んできたよー!」


「あんちゃーーん!坊主に聞いてありったけの武器と仲間集めて飛んできたぜ!」


 馬車の主はあの武器屋の主人とちゅん助を助けた少年だった。広場に飛び込んできた荷車から数人の男達が飛び出す!


 なんという僥倖!

 何というタイミング!


 やはり少年!

 やはり!お前が神か!


 この上ないタイミングでの増援!周囲に気力が満ちるのが分かった!しかし俺自身の状況は何ら変わらずピンチが続いているのだ!


「親父!ガソリン!ガソリンは無いかお!」


 馬車に駆け寄ったちゅん助が武器屋に問いかけた!


「がそりん!?なんだあ?それ?」


「油だお!燃える奴だお!」


「いや…武器は積んできたが…いや灯用の油、これならあるぜ?」


 武器屋は小さな壺を取り出した。


「十分だお!くれ!」


 奪う様にしてちゅん助が小壺を受け取ると、よろよろとしながらも増援部隊に気を取られた青ムカデ達の隙をついて素早く間を抜き青大将のケツに付いた!


「どりゃあああ!」


 ぴゅーーん!

 パリーーン!

 バシャアアア!


 渾身の力で投げつけると壺は青大将の尾の中腹部分に命中し油で後部をしっかりと濡らした。


「クソ蟲い!まっとれや!文字通りケツに火を付けたるからな!」


 ちゅん助がよろよろとした足取りで再び大混戦の広場を抜け出ていく。











「ちょっと!あのちび助!なにやってんのよ!」


「水みたいなの怪物に掛けたっぴゅ?」


「水?水が弱点なのかっポ?」


「なわけないでしょ!外に居る蟲が雨に打たれないわけないでしょ!」

「という事は…」

「油か!」


「油ッピュ!」

「油ッポ!」


「火を付けるつもり?でもあれだけの巨体を仕留められるかしら!?」


「青いのががったいしてるいじょう燃やしたところでほじゅうされるだけッポ!」


「ああ!エロピヨがたいまつ抱えて戻ってきたッピュ!ダメだっピュ!こんどは目立ち過ぎておそわれてるっピュ!」











「クソむしぃ!!!ここは派手にキャンプファイアーと行こうおw!文字通りムシ焼きにしたるわw!」


「うう、ちゅん助!それは字が違う…」


「キャンプファイアーといえば!わしは中学生のときフォークダンスで愛しいあの子まで順番が回らんかったや!」

「その怨念の炎を喰らってみさらせろや!だお!」


 戦場を駆け抜けてちゅん助が青大将の尾へと迫る!


 ドカッ!


「ぐえああ!???」


 いくら小さい体のちゅん助でも松明を抱えていては目立ち過ぎる。たちまちの内に狙いを見破られグソク達の体当たりを喰らい、その腕から松明が零れ落ちた!


「ちゅ!ちゅん助!お前の体では!」


 ポーン!

 ポーン!

 ポーン!

 ポーン!


「わああ!こ、こいつら!わしはサッカーボールじゃないお!」


 グソク達に捕まったちゅん助は玩具の様に体当たりの連続リフティングで弄ばれた。


「ひえええ!ボールはトモダチ!友達とか言っておきながら!蹴っ飛ばしたり頭突きしたりするんじゃあないお!」

「ふわあああああ!みんな~!なんとか!なんとか!奴のケツに火を放ってくれだお~!」


 ドカッ!

 ピューーーーーン


「ひえええええええええ!」

 強烈な一撃を喰らったちゅん助が場外へと蹴り出されていった。


















「ああ!エロピヨ!ぶっ飛ばされたッピュ!」


「アイツ、こんな時に!なに遊んで!いや遊ばれてんのよ!まったくもって使えない奴ね!」


「ご、ご主人サマ!えんごしないッポ!?」


「言ったでしょ!手持ちは照明弾くらいしかないの!!この矢じゃ直撃させたところで着火は無理よ!」

「アレやるにしてもアイツらの意図が分からない!無闇に撃ったらこっちが行動不能になる!」

「クソ!完全に裏目ったわ!伝声が出来なきゃアイツらの意図も確かめられない!」

「火を放ったところで復活は防げるの!?なにか…何かあの場に居る奴等だけが知ってる情報があるのかも…」

「今から街に戻るとしても時間がかかり過ぎる!」

「意図は…意図は何なの!?」


「おまけに大群の追手が居るっポ!」


「後悔先に立たずね…せめて…せめてあの場に残っていれば…」


「どうするっぴゅう…」


「どうするって…アイツらが…アイツらが勝機を切り開いてくれるしか…それしかないわ…」


「ぴゅう…」

「ぽう…」


「現時点では…」

「何もできない」


「ぴゅう…」

「ぽう…」


 第六話

 その9 意図は何?

 終わり

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