第120話 第六話 その8 崖上の観測者(オブザーバー)
「ったく!さっさと探すわよ、まあどのみちもう死んでるかもしれないけどね」
彼女達が見る映像はどこも悲惨な有様で阿鼻叫喚の様相を呈していた。
グソク1匹1匹は弱いために何とか抵抗は出来る、が圧倒的物量の前にはなすすべなく次々と戦線が崩壊していく。
抵抗できるがゆえに住人達が必死に戦い、逆に戦場は凄絶なものとなっていた。
「辛うじて戦線を保ってるのは教会周辺と辛うじて腕利きが居るらしい数か所くらいね、まあそれも時間の問題」
「教会にあの坊やを届けてあげはしたけど予想通り無駄骨になりそうね」
口調は冷静だったが、少女ははあ~と溜息を吐きながら言った。
「街の門はどこも酷いわね。脱出を計る奴から始末するのは当然だとして」
「壁の外にも待ち構えるようにびっしりだった…」
「あの状況下で逃げ出せたのは恐らく私達だけね」
「その私らでもここまで移動するのに苦労したんだから、まず他の奴等じゃ無理でしょうね」
「いつもの奴等じゃなかったぴゅう!」
「しゅうねんを感じるくらいしつこかったっポ!今もじりじり来てるっポ!ここも安全じゃないッポ!」
「ええ、全数が全数、平原であの間抜け達を追っかけてる時みたいに動きが違ったわ」
「せっかくここまで上がってきたのに、すぐに退散でしょうね」
「でも、なにか…」
「なにか事態があまりにも急変しすぎてるわ」
「やっぱり何か原因があるのかしら?」
少女は注意深く映し出される映像を眺める、その時だった!
「ポオオオ!!!!」
「な!?ファイアンなによ!びっくりするじゃない!」
小炎のあげた大声に少女が敏感に反応する。
「デカい!デカい反応があるっポ!こんなの脱出の時は無かったっポ!」
「なんですって!?どこよ!」
「あの広場だッピュ!」
旋風が魔法陣をその方向へ向けるととんでもない映像が飛び込んできた!
「な!?なによコイツ!」
「デカすぎだっポ!」
「か、怪物だッピューーーー!」
映像は巨大な青いグソク、青大将を捉えていた!
グソクと言うよりは丸々太った蛇に近いそのフォルムは丁度真後ろ、背面から捉えた映像でも蛇の様に鎌首をもたげて、今まさに捕らえた一人の住民を捕食しようと激しく首を振り襲い掛かっている様がはっきりと分かった。
怪物が左右に首を大きく振り振りするたび、必死で食われまい!と抵抗する男の姿が見え隠れする!
「ちょ!ちょっとおお!ちょっと!ちょっと!!!!」
少女が悲鳴に近い声を上げた!
「あ!あの間抜け!捕まってるの!あの間抜けじゃない!!!!」
「駄目だっポ!」
「一巻のおわりッピューーーーー!」
捕まっている男は今まさに喰われようとしているイズサンだった。
バリバリバリ!
「クソ!剣を!」
予備である剣がまた飴を砕く様に喰われる。必死で口に運ばれまいと青大将に突き刺しては離し突き刺しては離しを繰り返していたが、遂に刺しどころが悪く剣を奪われたのだった。
シュ!グサ!
残る武器は無いよりマシ!またも腰から引き抜いた短剣のみとなった!
「クッソー!これじゃあ!頭部バルカン砲でもあった方がまだマシだよ!」
「どうするっポ!?ご主人サマ!どうするっポ!?」
「絶体絶命だっピュウウウ!」
「どうするったって!どうもできないわよ!あんなの!デカすぎるじゃない!」
「精霊石無しじゃあ、あんだけデカいとどうやっても無理よ!」
「こっちの手持ちは照明弾がやっとのこの火石一発だけなのよ!」
「風石がない以上、揺らぎによる伝声も出来ないわ!」
「あかんポ!」
「いかんピュ!」
「精霊石無しでこの距離を仕留められるのは現状アレしかないわ…」
「でも!アレは危険だっピュウ!危険すぎるッピュ!」
「そうね…そしてやった所で効果範囲はどう頑張っても精々1m…あの大きさじゃ…」
「アイツは青グソクが合体してるっポ!」
「なんですって!?」
映像はイズサンを救出しようと果敢にも青ムカデの攻撃を突破して、青大将に攻撃を入れる男達の姿を捉えていた。
攻撃を受けた箇所からバラバラと青グソクが剥がれ落ちるが、またすぐに他の青個体が補充し合体する様子を伝えていた。
「あんなしくみになってるなんてボクも気付けないわけだッポ!」
「さいしょからあんなにデカいなら雨だろうが夜だろうがなんとか捉えていたッポ!」
「平原で仕留めた連結グソクムカデが何匹も…間抜けを捕まえている怪物はムカデの何倍も太い!」
「なんてこと…あれじゃあ…あんな風に回復するんじゃあ、アレを喰らわせたところですぐ復活してしまう、焼け石に水よ…」
「でもあいつら、あの状況でよくこの事態の根源らしい奴にたどり着いたわね…アイツら…?!」
「アイツら!?」
「そう言えば!あのちび助はどこ行ったのよ!?」
「まさかもうやられてるっぴゅ!?」
「バカ言わないで!あんなしぶとくて、逃げ足だけはクソ速い奴が簡単にやられるわけないわ!」
「あ、あれは!ご主人サマ!あそこ!」
「いたッポ!エロピヨよたよたしてるっポ!」
「居た!でもなんか傷ついてない!?」
「なんであんなにトロトロやってんのよ!?」
「すばしっこいだけがアンタの取り柄でしょ!?」
第六話
その8 崖上の観測者(オブザーバー)
終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます