第119話 第六話 その7 崖上への登坂者(クライマー)

「ハッ!」


 ガリンの街はガリン平原という駄々広い平原に囲まれてはいたが、街の裏手にあたる北側には標高は800mにも満たないものの、険しくまともな登山道もない裏山とも言うべき二つの連山があった。

 一つはガリンの真北にそびえ街を真後ろから眺めるように。もう一つはその西に、街をやや斜めに見下ろすように。


 二つの山は、いや山と呼ぶより巨大な崖と言った方が正しいのかもしれない、その連山は両山とも専門の登山道具でも用いなければ、まず登れそうにない断崖絶壁面をガリンの街に向け、その頂上からはガリンの街を一望することが出来た。

 

 登山道具なしでこの崖を登るには裏面にある急斜面を、しかしそこを選択したとしても、剥き出しの岩肌や崖傍の危険なルートを登り、通って行くしかない。

 故にそんな斜面を登れる生物はカモシカとか雪豹とかそういった四足歩行で、しかも機動性に長けた生き物だけのはずだが、真北の山の斜面を恐るべきスピードで駆け上がる一つの影があった。


 その影はよく見ると二足歩行の生物であった。


「クッ!あいつらこんな崖まで詰めてきて!いったいどんだけ居るのよ!」

「しつこい!鬱陶しいったらありゃしない!」

「こんな急坂でも裂け目があっても、自分たちの身体ごと大量に埋め込んで、追って来るなんて予想外だったわ!」


「ご主人サマ~だったらなんで登ってるっぽ?」

「登ってるっぴゅ?」


「は!?」


「登り切ってもジワジワと追ってくるっぽ、とにかく数がおおすぎてどんな崖でも埋めて追ってくるっぽ!」

「時間の問題っぴゅ!さっさと群れの外に逃げた方が良くないっぴゅか?」


「そ…それは…」

「その~あれよ、アレ!頂上でやり過ごして朝を待てば、あいつらも大人しくなるかもしれないから、そしたら歩いて揚揚と街を去ればいい!」

「そ、そんだけの話よ!」


「本当だっぽ?」

「本当っぴゅ?」


「な、なによ!それ以外何があんのよ!」


「なにもないっぴゅねw」

「なにもないっぽよw」


「無いわよ!ない!!!」


 喋りながらもロッククライミングやハードル走のような身のこなしで少女は急斜面を次々とクリアし駆け上がっていく。


「ぽっぽw!」

「ぴゅっぴゅっw!」


 炎と風は嬉しそうに少女の頭や背中の辺りを舞いながら後を追い、小炎は少女の行く先を照らし、旋風は背を押している様だった。


「あれだけの追手が来るなんて予想外!」

「それどころか待ち伏せ多数なんてあいつらほんとに皆殺しのつもりね」

「さっさと登るつもりだったのにかなり時間がかかってしまったわ」

「ウィンディ!出して!」


「ぴゅ!」


 殆ど息を切らさずに崖の頂上に達した少女が風に命ずると、待ってました!とばかりに大小二つの魔法陣が少女の眼前に展開する。


 風連図フレンズ


「いくつか火の手が上がってるけど流石に暗いわね、ファイアン出来る?」


「あたりまえだっぽ!」


 炎が魔法陣に触れると魔法陣に映し出される映像が明度を増して昼間の様な鮮明な映像が作り出された。


「うっわー!予想以上にやられてるわねこれ」


「ひどいっぴゅう…」

「とんでもないっぽ!」


 魔法陣は続々と街の惨状を映し出していく。ところどころで戦闘が行われているが小規模な抵抗で、グソク達の戦力が圧倒的なのは誰が見ても明らかだった。

 時間の問題とかそんな感じじゃない。ほぼ一方的な虐殺、そう言った方が正しいかもしれない。


「アイツらはどうなってる!?」


「気になるっピュ!?」

「気にしてるっポ!?」


「ば!バカねえ!そ、そんなわけないじゃない!」

「その、あれよアレ!アイツらとは無様な死に様だけは見届けてあげるって約束しちゃったし!」

「その死に様を以って後世に笑い話として伝えてあげて、後々の旅人や冒険者達に」

「実力以上の無謀な事をやると、そっこー死ぬから気を付けなさいって教訓を残してあげなきゃ!」

「なればこそあいつらの犬死も無駄ではなかった!」

「気の毒だが無駄死にではないぞ!ってやつよ!」


「そうゆうことにしておいてあげるぴゅうw」

「すなおじゃないっぽうw」


「は?あんたら瓶に閉じ込めたり水槽に沈めるわよ?」


「ぴゅ!?ぴゅう~!?ご主人サマそんな事よりあいつら早く探すッピュ!」

「そ、そうだッポ!」


「ったく!さっさと探すわよ、まあどのみちもう死んでるかもしれないけどね」


 第六話

 その7 崖上への登坂者クライマー

 終わり

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