第110話 第五話 その31 離れろ!
「あ~w疲れたお~w」
(ああ…そりゃそうだろうなw)
後頭部にかなりの火傷を負ったくせにぴょんぴょん飛び回って、いくら嬉しいと言ってもはしゃぎ過ぎだろうが…だが、ちゅん助には序盤の索敵といいかなりの無理をさせたのも事実。まあ今はそっとしておいてやるか。
俺はふとちゅん助がもたれかかっている魔王の亡骸に視線を移した。
恐ろしい相手だった。正直倒せたのは幸運としか言いようがない。
ダイオウの巨大且つ強大な能力や擬態や人々を陥れるかの様な高い知能。
ひょっとしたらこの街にグソク退治による圧倒的な経済効果を発生させ膨大な民衆を集め一斉に捕食する、それすらが最初からコイツの恐怖の罠だとしたら?
そう考えただけでもゾッとする。人獣、グソク、ダイオウ、全く命がいくつあっても足らないというのはこういう事を言うのだろう…
俺は不意に周りを見渡す。
灰色達は街の人々を襲うのを止め、眼の光が白くなって次々と大人しくなっていっている様子だった。
キキキッキキッキキキッキッキキキキ
灰色達は各々が泣いている様な鳴き声をバラバラに上げ始めた。主人が…ボスがやられた事を悲しんでいる…そんな感じにも聞こえた。
キキッキキキッキキキッキキキッキ
キッキキキッキキキッキキキッキキ
キッキッキッキッキッキッキッキッキ
キッ!キッ!キッ!キッ!キッ!キッ!
バラバラに泣いていた灰達の鳴き声は誰に言われたわけでもなく次第にその歩調を合わせていった。
(なんだよ、こいつらwもう統率者は居ないってのに行儀のいい事で…)
魔王は確かに俺達が葬ったのだ。灰達の行動は律儀なようにも思えた。
指揮官が居なければバラバラに動くのだろうか。こいつらの生態は知らないが操られていた分いい様に使われていた、そうとも考えられるのだ。
バラバラに動けば肥料に、統率されれば憎き敵性害蟲、哀れな様にも感じた。
「どこでも同じだなあ…」
俺も前の世界で会社にいい様にこき使われていたのだ、そう考えると灰色と俺は同じ仲間だったかもしれない。そんな奇妙な思いにもとらわれた。
(悪いのはいっつもトップの奴等ってわけか…)
再び俺は白い悪魔に視線を戻した。魔王は動かない。滴り落ちていた体液も止まっている様だった。
俺は再び座り込んで目を閉じた。
キッ!キッ!キッ!キッ!キッ!キッ!
灰色達は絶え間なく静かな合唱の様に泣き続けていた。律儀な奴等だ。もっとも奴等にとっては、感情があるのか無いのかは分からないがボスを失った悲しみの鎮魂歌でもあるのだろうか?
「なあちゅん助、会社の上司が亡くなったら悲しいか?」
「は?はっ?はあ???」
「んなわけねーおw」
「わしはクソ上司が病気で亡くなった時!涙流して喜んだわ!」
「それあまりに罰当たりじゃない?」
「ふん!わしは感情に正直な男だおwクソな奴が亡くなったからと言って生前世話になったとか立派な男だったとか、心にもないセリフは吐けない男だおw」
「死んだ人の事を悪くいうもんじゃない!とか注意してくる正義マンもおったが!」
「それはそいつがパワハラ受けてないからそんなエラそうな事が言えるだけだお!」
「わしは言う!悪口を言う!死んだ奴なら安心してなおさら悪口言うわwww!」
「ああそうかいw」
まあ失礼な意見かも知れないが此奴ら灰色達に本音を聞けたなら、ちゅん助が言うように支配から解放された!
案外そう言って喜びの鳴き声を上げているのかもしれないな、それにしてはもう指揮官は居ないのに、えらく揃った鳴き声であった。
もう指揮する奴も居ないのに…
そう思いながらもう一度辺りを見回す。
灰達はボスが撃破された直後は慌てふためいた様子で人々を襲うのを止め、右往左往していたのに今や動く事も止めてじっと止まって鳴き声を発していた。
よく見ると全部の蟲がこちらを向いて眺めているようにも見えた。大人しくしてくれてるのはいいが、全体がこちらを見ているのは…それはそれで気色悪いw
ま~ったく、指揮官が居なくなったというのに、大人しくまとまって行動を合わせやがって!
「………」
「………」
「………」
「………」
「!」
(行動を!)
(合わせている!!)
(だと!?)
ドキン!
一瞬だが胸が激しく鼓動するのを感じた。
(奴は!)
慌てて三度、白い魔王を見つめた。相変わらず動いていない!
どう見ても死んでいる!
死んでいるはずなのだ!
ちゅん助がいくら小突き回しても寄り掛かってもピクリともしていなかったのだ!
死んでいる!
死んでいるはずなのだ!
なのに!
この胸騒ぎはなんだ?
全頭が俺を見つめているからその合算でプレッシャーを感じてしまった、そうとでもいうのか!?
何か俺は見落としている事は無いだろうか、じっと魔王とちゅん助を見つめ思った。
確かに短剣は完全に魔王の体を弱点である腹から刺さって背へと突き抜けている!間違いなく!
あの白い奴は絶命しているはずなのだ。白く美しい透き通るような体色、片方だけ折れた触覚が奴であることを明確に物語っているではないか!
(ちゅん助がやった触角は折れてる、間違いなくあれは奴のはずだが…)
「!」
(なんだと!?)
「はなれろッ!ちゅん助えええ!」
第五話
その31 離れろ!
終わり
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