第109話 第五話 その30 命中!!!!!!

(ああ、助かった…)


 仕留めた!


 やっつけた!


 俺の率直な感想はそんな勇ましいものでなく、生きているのが不思議なくらい、幸運にも助かった!

そんなものだった。

 

 視線をダイオウに移す。


 そうだ!

 大切な事を忘れていた!

 奴は!

 あの白い核蟲はどうなったんだ!?


 それを確認せずして安心してはいられない!俺は力が抜けた足腰に再び力を込めると慎重にダイオウの残骸へと歩を進めた。


 メラメラメラ…


 爆人石弾地雷群が発生させた煙の残り火が未だに上がっている。


 これ程の大爆炎の中で奴が生き残ってるとも思えないが、最初の爆人石弾は三発も同時直撃させたのに触角一本奪っただけで、あとは魔力障壁で防がれたのだ、油断はできない。


 ガラガラガラ!


「!」

「!」


 ダイオウの残骸の頭部が激しく崩れ地面に灰色の死骸となって広がった。


「イズサン!あいつ!」


 ちゅん助が指す方向には奴が居た!


 灰色とは違う輝きを放つ個体!

 透き通るような白!

 尚且つ水晶の様な輝き!


 妖しさと美しさを併せ持った輝きを放つ外殻!


 違いなく奴だ!

 白き魔王

 核蟲!


「ゆ、油断するなお…!」


「わ、分かってる…!」


 俺は剣を構え慎重に距離を詰めた。一度緩まった神経に再び緊張感が走る。


 奴は動かない…

 

 動かない…のか?


 動けない…のか?





「こ、これは!」





 接近するとその答えと理由がすぐ分かった。


「ぶっ刺さっとるおwww!」


 ちゅん助が歓喜の声を上げた!


 白の核蟲は腹から背にかけて一本の短剣に貫かれていた!


 ド正中線!

 これ以上ない!


 そんな位置にしっかりと!その背には白銀の角が生えたかのように短剣の刃が立っていたのだった!


 腹と背から滴り出る体液、完全に閉じ切った脚、全く輝きの無い眼。


 全てが…


 全てが奴を仕留めた事を物語っていた!


「わはははははは!やった!やったンゴ~w!!!」


 堪らずちゅん助が奴の周りで大歓喜の跳躍!

 ぴょんぴょんと飛び回り跳ね回った。


「オオオオオオオ!」

「うおおおおおおおおおおおおおお!」


 ドオッ!


 状況を理解した周囲から大歓声が上がった!


「おおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


 もちろん俺の口からも!


「やりましたな!」

「やりましたな!勇者様!お見事!流石です!」


 ガレッタも興奮冷めやらぬ!そんな様子で駆け寄ってきた。


 俺は疲れ果てて、みんなが力を合わせたからです、などという定型句を発する事も、俺はそんなんじゃありませんと言う謙遜すらも思いつかず、ただ…ただ、ああ…とそんな風に返すのがやっとだった。


 もっともガレッタはその後、即


「他の現場の様子を見回ってきます!まだ襲われている人々がいるといけませんから!」


とすぐに隊員を引き連れて周囲の調査に向かって行った。見た目や物言い通りに真面目ではある男だった。


「見たか!クソ蟲!」

「これがちゅん助様の実力じゃあああああ!」

「どんなもんじゃあああああああい!」

「シャオラッ!」

「喰らうお!わしのフリッカージャブ!」

「オラ!オラ!オラアッ!!!」

「キャオラッw!」


 ポコッ!ポコッ!ポコッ!ポコッ!


「わしのバレット!ショットガン!ライフルストレート!」


 ポコポコポコ!


「わしのインパラパンチ!」


「それガゼルパンチじゃなかった?」


「こーくすくりゅー!ぶーめらんてりおすきっど!ぎゃらくてぃか44まぐなーむ!」


 ポカポカポカ!


「ビシ!だお!バシ!だおw!」


 ちゅん助はいろんな必殺技と思われるパンチ名を叫んでは、魔王の亡骸を夢中になって殴りつけていたが…手足が短いので、どう見ても同じように殴って(それも疑わしい…後半は疲れて口でビシバシ!とか効果音を叫んでいるだけの様な…?)いるようにしか見えない…


「わははは!フロイト・パターソンのインサイドワークボクシング(ボクシングの秘訣)を読んだだけさ!のわしに死角はないおw!」


 ポカッ!ポカッ!


「ふっ!魔王の奴めは億千万の下僕を以ってしてもわしには手も足も出ん!」


「……」

「こいつらには脚しかないけどな…」

「しかしお前、俺が槍で死骸刺してた時、死体蹴りやめろ~うんたら言ってたよなあ?」


「全弾命中!全弾命中!当たるうう!♪わしのパンチがあたるうう!♪」


 ますます調子に乗ったちゅん助がかつて魔王だった死骸に彼曰くの必殺パンチを繰り出していく…


 なんという死体蹴り!


 安全を確認したとみるやいなやの、高速手のひら返し!ちゅん助は超強気で死骸を弄んでいた!


「おい、死体蹴りみたいなことはやめろよ…」


「は?」

「死んだら許される!」

「死人の悪口を言うべきじゃない!」

「そういう風潮!やめるお!」


「良くないだろ~?そういうの!」


 俺は彼の行動を咎めたがちゅん助は悪びれもせず言い放つ。


「は?」

「死んだらノーサイドとか!」

「冗談じゃないお!死んでも悪口言われる奴は!」

「生前そういう行いをしまくってきたんだから!そうなるんだお!」

「此奴は街の人々喰いまくって殺しまくったんや!」

「その悪行!ゆるすまじ~!ゆるすまじーーー!」


 まあ、言い分は分からんでもないが、数だけの話で言えば、恐らく街の犠牲者を遥かに上回る数のグソクを、俺が駆除した分だけでも余裕で超えていそうなことは…揉めそうだから伝えないでおこう…


「代々!いや末代までコイツの悪行は言い伝えられ!」

「そして此奴を倒したわしの偉業はそれ以上に伝説!い~や神話として語り継がれるおw!」


(目的はそれかよ…)


「此奴は市中引き回しの上、晒し首!」

「その後、標本にして街の美術館に飾り!」

「救世主たるわしの活躍の物語を後世に伝えまくるおwww!」


「この街に美術館なんてないだろ~」

(そしていつの間にお前が救世主になったんだよ…このペットめ…)


 ちゅん助はますます調子に乗って、そして言い分は次第にエスカレートしていく!


「やっつけたお~w!やっつけたお~w!」


「…そうだな」


「やっつけたお~!やっつけたお~!わし一人でやっつけたお~w!」


「!」

(こっ!コイツ!?)


「やっつけたお~!やっつけたお~!足手まといのイズサンを庇いつつ!やっつけたお~w!」


「失敬な!さらっと捏造すんなや!誘いこんだの俺だぞ!」


「仕留めたんわしやで~w」


「白い奴の場所突き止めたの俺だぞ!」


「とどめはわしやでえ~w」


「地雷案出したのは俺だろうが!」


「ぶっ殺したんはわしやねん~w」


(こ!コイツ!)


「敵陣に一人でドリブルで何度も切り込んであと一歩のシュートを何度もはなった奴よりぃ~!」

「たまたま、こけたところにパスが来て偶然にも身体に当たってラッキーゴール決めた奴の方がえらいやで~~www」

「なのに~なのに~役立たず勇者のイズサンが手柄横取りしようと!独り占めしようとするお~www」


「お前が言うな!」

「お前が今まさにやってることがそれじゃないかッ!」


「わしの手柄に嫉妬したイズサンが冤罪をでっちあげるウ~w」


(こ、コイツ!照合石の時といい天令石の時といい、嫉妬しとったのはどっちかと言うと、いや完全にお前の方だろ!)


「おらああ!貴様など!爆人石弾なんぞ使わんでもワンパンで昇天させられたんや!」


 ポコ!


「……」


「爆人石弾使った方が絵的に映えるから使っただけだお!」


 ポコポコ!


「………」

(相手が完全に沈黙したとなると俄然強気だな、コイツ…)


「あっけないおw!」

「我が必殺のスペシャルブロー!出すまでもなかったわ!」


(ないだろ…んなもん…)


「爆人石弾地雷など!」

「我が四聖必殺技の中でも最弱!」

「それに呆気なく仕留められるとはっ!」

「ボスキャラの面汚しよw」

「ぶわーはっはっはっはっはw!ぶわーはっはっはっはっはw!ぶわーはっはっはっはっはw!」


(いや、あと三つは何だよ!?)


 言いたい放題、やりたい放題の悪態を吐くだけ吐いたちゅん助は


「ふう~」


と言って魔王の尻にもたれ掛かるように座り込んだ。


「あ~w疲れたお~w」


 第五話

 その30 命中!!!!!!

 終わり

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