第111話 第五話 その32 斬れ!俺ごと!
「はなれろ!ちゅん助えええ!」
俺は咄嗟に叫び声を上げる!
「わわっ!!!???」
「な、なんだお!イズサン!急に大声出して!」
「脅かすなお!仕返しかお!?」
「びっくりさせんなや!」
ちゅん助は驚いた様子で答えた。
「違う!そこから離れろ!いいから!」
「なんだお!?」
「そいつは!その死骸の触角は!」
「折れてるのが左!」
「左なんだッ!」
「な!なにぃ~!」
バラバラバラ!
ガツッ!
「ぎゃあああああああああああああ!」
「ちゅんすけえええええええええええ!」
ダイオウの残骸、死骸の山が急に崩れ、勢いよく飛び出してきた1匹の灰がちゅん助の体を捕らえた。
その灰色はちゅん助を盾にするような形でこちらに向き直る。
灰色が溶ける様な形で変色していく。
白!
折れた片方の触角!
右!
奴だった!
「クソが!生きてやがった!」
迂闊だった!もし俺達が注意深く魔王の死骸を観察していれば、折れた触覚が左右違う事に気付けたはずなのに!
やられた!
魔王は自らの擬態だけでなく!手下の一匹の死骸を自分の色に変色させ擬態させていたのだ。魔王の死骸と思っていた個体の体色が脚から変色し始め灰色に戻っていく。
勝った!と思った瞬間が一番危ない!
奴は見事に!狡猾なまでにそこを突いてきたのだ!
「うぐぐぐ…」
ちゅん助の口から苦しそうな呻き声が漏れる。
「待ってろ!すぐ助ける!こいつ!」
俺は奴との距離を詰め剣を振りかざす!
ズササ!
魔王は卑怯にもちゅん助を前面に出して剣撃を封じようとした。
「うう!」
「うぐぐ…油断したわ…イズサン…」
俺は力なく剣を下ろし、ちゅん助は力なく言葉を発する。
「わしとした事が…戦いの中で戦いを忘れたわ…」
「今、そう言うのいいんだ、ちゅん助!」
ちゅん助のボケもこの状況ではさらに笑えないものとなっていた。
どうする!?
どうする!?
俺は突然訪れたピンチに動揺しながらも考えを巡らせた。
魔王がその気ならちゅん助は捕らえられた瞬間にかみ砕かれて絶命していたはずだった。
しかし、奴には魔力障壁がある以上、ちゅん助を盾になどする必要は無いはずだ。
恐らく知能のある奴はこの戦いの中で俺達の戦いにおけるキーパーソンが俺ではなく、ちゅん助であることに気付いたのだ。
実際に戦えるのは俺だけだったが魔王は自分と同じように俺に指示や戦闘のアイデアを出してる者がいると見抜き、目標をひとまず俺ではなくちゅん助に定めたのだ。
そしてちゅん助を仕留めたのち
俺を!
だが、魔王はちゅん助を殺すことを即座に実行しない、何故だ?
俺は注意深く魔王を観察する。
「!」
魔王の右の外殻には明らかに直線的に付けられた傷があった。爆人石弾による飛散物、恐らくは短剣の一本が掠めたのだろう。傷口からは大量ではないもののジワリと体液が滲んでいるように見える。
そしてその後ろには爆炎で焼かれたと思われる焦げ跡があった。
そうか!
奴もダメージを負っていたのだ!
一度ダイオウの正体を見せた以上、無傷であるなら即座にまた合体を試みて圧倒的戦力差で押し潰す方が得策のはずだ!にもかかわらずそれをしないのは…
そう!
しないのではなく、出来ないのだ!
奴も弱っている!
恐らくは、奴は今、合体も魔力障壁も十分に出来ない!
だからこそ奴は手下を偽装させてまで俺達をおびき寄せ戦力の乏しいちゅん助に狙いを定めたのではないだろうか!?
追い込んでいる!
俺達も追い込まれてはいるが、向こうも必死なのだ!だがちゅん助を人質に取られている以上、圧倒的に不利なのは変わらなかった。
「待っていろ!ちゅん助!なんとか!何とかしてやるから!」
策は無かった。しかしそれでも俺はなんとかちゅん助を勇気付けるために声を掛ける。
「うぐぐ、イズサン…アカンお…こいつから離れられない…」
「諦めんな!何とかしてやるから!」
「う~ん、体が…痺れる…」
「ちゅん助!」
ちゅん助の体からみるみるうちに生気が失われていく。魔王は相当きつい力でちゅん助を押さえつけている様だった。このまま時が過ぎればそれだけでもちゅん助の命が失われるのは明白だった。
「イズサン…」
「なんだ!」
「構わず…」
「わしごと…」
「……」
「斬れだお!」
「!」
第五話
その32 斬れ!俺ごと!
終わり
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