第85話 第五話 その12 奴が居る!奴は居る!

「なんたるアバウト!」


「でも!実際、正規兵の生き残りと合流できただろ!」


「それは偶然だと言うとろうが!」


「なら今度は絶界弧闘ぜっかいことうで周辺を見て来てくれ!どんな事でもいい!」

「手掛かりを!手掛かりを探してきてくれ!」


「今度はホントに探しに行けってか!?さっきからわけわからんお!」


「頼む!これはお前しかできないんだ!」


「アホ!」

絶界弧闘ぜっかいことうはそこまで都合の良い能力じゃないお!」

「あれは使ったらめちゃめちゃ疲れるやで!」

「長時間使ったり、何回も使えねーお!」

「それに手掛かりって具体的に何探してこりゃいいんだお!?」


「分からん!!!」


「ズコオオオオオオオオオオ!」

「おまえ!さっきはいきなり切れたし、いよいよトチ狂ってきたなお!」


「お前の観察力だけが頼みなんだ!」

「どんな些細な事でもいいから!」


「どこいったってグソクだらけだお!」

「でもこのままじゃじり貧、そこまで言うなら見て来てやるお!」


 そう言ったちゅん助がグソク達の間を器用に走り抜けたかと思うと姿を消した。

 そして姿を消したかと思うと瞬きする間もなく、すぐに頭の上に軽い重みを感じた。


「ゼイゼイ…見て来てやったお…ゼイゼイ…回れるだけ…疲れたゼイゼイ…」


 ちゅん助が離れたのは僅かな時間であったが、絶界弧闘ぜっかいことうが彼の言う通りの能力だとすれば、刹那の瞬間であらゆる行動が完結できるはずだ。


「ホントに見て来たのか?疲れた演技してねーか?」


 ポカッ!

「いてッ!」


「ゼイゼイ!ほんま、おまえを置いてあの美少女と逃げれば良かったわ!」

「ちゃんと見て来たお!ゼイゼイ!」


「どうだった!?」


「どこもかしこも酷いもんだったお!酷すぎてまともに見ちゃおれんお!」

「ただ青黄赤は見当たらないお、アヒル広場も見てきたがどの色も居なかった!」


「そうか…他には!?」


「どこも同じようなもんで特に犠牲者が多いのはやっぱり門周辺だったお!」

「一気に流れ込んできて門を出ようとした人達も逃がさん!とばかりに襲いかかったんじゃねーかお?」


「なるほどな…」


 グソクを侵入させ次々供給する事と、逃亡を図る者を封じるため門周辺には特にグソクが多くて当然だろう。門を閉じに来る者を阻むためにも門周辺にはそれこそ大量のグソクが配置されててもおかしくない。


「他に、特に侵攻が激しいと思われる場所はないか?」


「あるお!」


「どこだ!」


「ここだお!」

「わしが見て回れた範囲でって前置きがつくが!」

「多分、現時点でここ時計塔広場が一番激しい戦場となってるお!」

「グソクの死骸の量が段違い!」


「ここ!?」

「ここだって!?」


「そうだお!」

「ただ他の場所と違ってここを襲ってるグソクは襲い方がちょい違うかもだお?」


「と言うと?」


「門周辺以外の他の場所は、数こそ多いものの自由気ままに侵略しとるというか、暴れ回っとるというか」

「バラバラに襲撃しとるお!」

「しかし!ここに来るグソク達は波があるというか…」

「どっ!と纏まって襲い掛かって来てるというか」


「波!?波だって?」


「そうだお!波状攻撃だお!」

「足止めされとるちゅーか?」

「集団で襲って来て撃退したら、次の一波が来る感じがしとるお!?」


「そう言われると確かに…撃退して動こうとすると次の奴等が供給されてくる感じだ…他の場所は違うのか?」


「無差別に襲っとる感じだった…」

「それ以外、収穫はないお…すまんお…」


「なに言ってる!!凄い情報だぞ!」


「え!?」

「なんで?」


「俺の勘だが…」


「勘だが…?」


「あくまで勘だが…」


「あくまで勘だが…?」


「ああ、勘だが…」


「勘だが…?ゴクリ!」


「答えはCMの後で!」


「ズコオオオオオーーーーーーーーーー!!!!!」

「イズサン!おまえ!こんな時にふざけるなお!」


「いや…死ぬ前に一度やってみたかった…」


「わしのネタ取るなお!はよ言えや!」


「ああ、俺の勘では操ってる奴、もしくは統率してる奴がいる!」


「なんと!?」


「ガリン平原でピンチに陥った時の事思い出してみろ!」


「ションベン漏らしたことかお?」


「それは忘れてください…」


「武士の情けや、言いふらしたるおw」


「…さておき、あの時もずっとバラバラに行動していたグソクがいきなり統率された動きになったろ?」

「今のこいつらの姿、あの時とそっくりじゃないか!?」


「確かに…そりゃそうだがお?」


「あの時は青におびき出され、黄色に狂わされ、赤には武器を無効化された完全な罠だった…」


「まんまとやられたなお」


「そうだ、あの時の灰色もここの灰色達と同じで波状攻撃とか待ち伏せ、回り込みといった集団的で意図を持った動きをしていた!」


「確かに状況は似とるお…」


「とするとあの時見た巨大な影!」

「青はそいつの元に俺達をおびき寄せた!そうは考えられないか?」


「?」


「居るんだよ!」

「大王だか蟲の王だかが!近くに!」

「奴を見た街は滅びる!」

「俺がもし蟲の王だったら、自分を目撃した者は確実に殺りたいと」

「目の届くとこで殺りたい、出来る事なら自らの手で!」

「そう考える!」


「う~ん…?」

「言っちゃ悪いが自意識過剰過ぎないかお?」


「青黄赤の巧妙な罠でおびき寄せて自らの元に誘い込み」

「大量のグソクで囲ませて…それでも俺達は生き延びてしまったんだ!」


「うむむ…?」


「お前が大王なら…もし知性があるなら意地でも始末したいとは考えないか?」

「姿を見た者が怒りに触れるという伝承を信じるならなおさらだろ!」


「それが今の状況となにか関わりあるのかお?」


「もしこいつらを操ってる奴が居て、俺達を狙ってると仮定するなら、の話だが…」

「そいつが離れた場所に居るなら青とか黄を使ってまた俺達をおびき出そうとしないか?」

「でも今の状況は?」


「今の状況は波状攻撃でずっと足止めされとるお」

「おびき出しとは逆って事かお?」


「そうだ…つまりは奴は近くに居る!そんな気がするんだ!」


「アホかお!アホかお!」

「だから!そんなクソでかい奴が居たら!」

「すぐ見つかるちゅーんだお!」

「そもそも!ここは広場やで!居るんやったら一番見つけやすいやないか!」


「其処だ…」

「分からないのは其処なんだ…」

「平原でも俺達以外の巨大な影の目撃情報がない」

「もうこの街に入って、しかも近くに居るならお前が見つけてるはずなんだ…」

「何故だ…!」


「簡単だお!」

「そんな奴居ないからだお!」

「居ないからだお~!」


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「だったら統率されたここいらの奴等と、バラバラに動いてる周辺のグソク達との違いはなんだ!?」


「それなら傍におる奴等しか操れない事になるお?」


「ああ、だからこそ近くに居て、適宜波状攻撃を編成してるんじゃないか?」

「それに…」


「なにかお?」


「さっきからずっと見られてる気がするんだ…何かに…何かに見られてる!そんな気がするんだ!」

「この広場に入った時から、ずっとだ!」


「マジかお…わしは特に何も感じんが…」


「いいや、平原で見た巨影から感じたプレッシャーと同じなんだ!」


「なんだって~!?」


「お前の周辺調査の情報を聞いて確信したよ…必ず傍に居る!」


「……こんだけの量のグソクが一気に街に流れ込んできてるんだお?」

「門周辺を固めとる奴らは?」

「一番遠い門はここからめっちゃ離れとるお?」

「近場の奴しか操れないなら、それはおかしいお?」


「確かにそうだが複雑な指令を出す時とか」

「俺達に集中してる時とかは他の場所は手薄になるのかもしれない…」

「もしくは電波の様なもので指令を出しているとか」

「魔力検知の様なものに引っかかるのを警戒して微力に抑えてるのかもしれん」


「それはありうるけど…」

「あくまでおまえの想像ではないか!」

「それあなたの感想ですおね!」


「信じられないか?」


「………」

「……おまえは…わしと違って…吹かしこいた様な事は言わんし…」

「車に乗ってる時とイビキと歯軋りが五月蠅すぎる事以外は大体信用しとるお…」


「………」

「イビキと歯軋りのくだりは要らなくない?」


「居るんだなお?蟲の王」


「ああ、居る!」

「今度は確実に俺を仕留めるために、こうして何回も波状攻撃を仕掛けさせて!」

「俺達が疲れるのを、待っているんだ!」

「奴は居る!」

「そんな気がして仕方ないんだ!」


 第五話

 その12 奴が居る!奴は居る!

 終わり

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