第84話 第五話 その11 逆上

「うるせえええええええええーーーーーーーーーーーーー!」


「!」

「!」


 突然怒鳴ったイズサンにちゅん助と女性が驚いた。


「さっきからゴチャゴチャ!ゴチャゴチャと!」


「お、おい…どうしたんだお!だいたいおまえが…」


「早く行かねえとまずいってのが分かんねえのかよ!」


「い、イズサン!どうしたお!?いきなり切れて!」


「うっせえ!つってんだよ!」

「グソクより先にぶっ〇されてえか!」


 ドカ!ドカ!ドカ!


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「わあー!」

「やめるお!やめるお!」

「この絶望的状況に気でも狂ったかお!」


 イズサンは槍の柄をちゅん助目掛けて突き下ろす!必死に躱すちゅん助は突然のイズサンの豹変に泡を食った。


「そんなにこの女が気になるんならてめーが送ってけや!」


「なに言っとるんだお!わしが送ってけるわけないお!」

「そもそもこの人を送っていけって…」


「知るか!」

「俺は時計塔の広場へ行く!」


「は!?」

「アヒル広場じゃないのかお!?」

「ますます意味不明だお!」


「てめーはこの期に及んで自分のお仲間とでも遊びてーのか!勝手に行ってろ!じゃあな!」


「キサマッ!」

「黙って聞いておれば!わしは鳥じゃないお!」


「うっせえ!この勇者様の勘が次は時計塔広場でなんかあるって!」

「そう言ってんだよ!」


「はあああああああああああああああ????」

「今度は勘かお!今度はいきなりの勇者ブランド濫用かお!」

「訳が分からんお!」


「とにかく俺は行く!」

「お前は好きにしてろ!」


 そう言うとイズサンは走り出して行ってしまった。


「ああ!まつお!完全に冷静な判断力失くしてやがるお!」

「いきなり激高!混乱してなんだお!?だいたいおまえが!」

「女の人!済まないが、わしはあのアホを追わないかん!」

「教会はすぐそこだお、何とか自力で!」


「え?ええ!」

「わ、分かってます!」

「あの、勇者様はなんであのように取り乱して!?」


「しらんお!」

「わしが聞きたいお!」

「これじゃあ黄色グソクにやられた時みたいじゃないかお!」

「はやく正気に戻さないと!」


 ちゅん助も慌ててイズサンの後を追っていった。


「………」

「黄色グソクに…?」


 女性は困惑した表情で彼らの向かった方を見つめていた。



「まておー!この乱心者!せっかく加勢にきてやったのに!この扱いはないおー!」


 グソクの群れを斬り分けながらなんとか時計塔の広場までたどり着くと、ここでも激しい攻防戦が繰り広げられていた。


「まておー!」


 俺にどつかれそうになったちゅん助が怒りの表情で追いかけて来た。


 タタタタタ!

 パカッ!

「いてッ!」


「いて!」

「じゃねーお!せっかく美少女の熱い誘いを断ってまで駆け付けてやったのに!」

「なにグソク扱いして槍でどつこうとしたんだお!」


 ちゅん助はようやく平衡感覚を取り戻したのか勢いよく一気に俺の頭まで駆け上がると渾身の一撃を俺の頭に叩き込んできた。


「別に熱くはなかっただろ…」


「あと、あの女性が襲われたのはアヒル広場だって言ってんだろうが!」

絶界弧闘ぜっかいことうで見て来たテイでアヒル広場で戦闘があったみたいだと言えと言ったり!」

「あの女の人を教会まで送るよう提案しろと言ったり!」

「意味不明だお!」

「おまえの言う通りにしたのに!」

「いきなりブチ切れて!」

「さらには関係の無い、なんで、この時計塔の広場に来てんだお!」

「説明しろお!」


「特に理由はない!」


「!?」

「ズコオオオオオオオオオオオオオオ!!!!????」

「は!?は!?」

「そんじゃおまえ!なにか!?」

「理由もなくどつこうとしたり!激しい戦闘があったと言え、と言ったりさっきからおかしいお!」

「まったく幻覚除けも全く効いてないんだお!」

「ちゅーか!黄色と戦っても無いのに混乱しよって!アホかお!バカかお!」


「それはもういいんだ!」

「それより見ろ!」

「ここで戦ってる人達は良い武器を使っている!」

「ひょっとしてガレッタ隊長とか正規の部隊の人達じゃないのか!?」


「いいんかい!」

「なに無駄な事をさせてんだお!」

「って正規も何も、あそこで必死こいとる奴は例の隊長さんだお!」


 ちゅん助が指す方向に視線をやるとうず高く、山の様に積まれたグソクの死骸群の向こうで、必死に指示を出しながら剣を振るっている人物を見つけた。


「!」

「ガレッタ隊長!ここに居たのか!」

「ありがたい!どうだちゅん助!俺の勘は!」


「さっきからなにを言っとる!たまたまだろうがお!」


 納得がいかず頭上でぴょんぴょん飛び跳ねているちゅん助をよそに俺はガレッタと合流した。


「隊長!どういうことです!?この状況は!」


「!」

「おお!勇者様!」


「なんで!こんなにグソクが入り込んでるんだお!」

「おまえ!わしらの話聞いて警戒をゴンにするって言ったお!」


「ゴンじゃなくて厳(げん)だぞ!」


「どっちでもいいお!」


「申し訳ない…」

「しかしあのお話の後、門の戸締りとその周辺の警備だけは特に警戒するよう指示は出しておいたのです!」

「なのに、今日全ての門が破壊されたわけでないのに!」

「何故か全て開放されていたと!」


「なんですって!」

「なんだって~!」


 クソ!!!なんてことだ!!!


 門が開いているだと?


 じゃあ警戒に当たってた奴等は?

 あれだけバラバラに動いていたグソク達なのにいくら門が開いているからっていって一斉に侵攻し出したというのか!?

 それじゃああの時と、いいやそれ以上にとんでもない数のグソクが統率されて襲ってきたというのか!?


 おかしい!やはり何かがおかしい!


「おかしいお!」


 ちゅん助も同じ感想を口に出した。


「隊長!他の隊員は!?」


「それが奴等がまず真っ先に侵攻してきたのは我々の詰め所と宿泊施設らしくて…」


「なんですって!」

「なんだって~!」


 クソ!よりにもよって!なんてことだ!


「それで他の隊員は!」


「…不意を突かれた事で殆どが…残った者でなんとかここまでたどり着き」

「教会側に向かう個体を少しでも食い止めるのがやっとなのです…」


「ああ…」


「防衛勢力が初手でほぼ全滅とか詰んだお!詰んだお!」


 俺は絶望し、ちゅん助は頭を抱えた。


 なんとか正規の部隊の戦力と合流し、共闘してグソクを迎え撃って少しでも時間を稼ぐ!というゲームプランは早々に崩壊した形だ…


 唯一不幸中の幸いといえば、正規兵は全滅ではなく少数であっても隊長を含めた生き残りとこうして合流できた事だった。

 たった一人で戦い続けるよりは遥かに良い。


 ただ…

 

 ただ、それでも全滅までは時間の問題に思われた。生き残る時間が少し延びただけなのか…


「どうするかお…どうするかお…」


 俺達が正規兵と合流したからと言ってグソク達の攻勢が収まるわけでもなく、第ニ波、三波と次々と襲ってくる。時計塔の広場に見る見るうちにグソクの死骸が広がり重なっていく!

 俺達がたどり着いた時にはすでにグソク死骸の山が積まれていたというのに、さらに地面をどんどんと死骸が埋めていく!


「クソ!なんとか、なんとかしなければ…」

「ちゅん助!なにか案は無いか!?」


「ここでわしに聞く!?」

「さんざん、わしの意見無視しといて?」

「そもそも赤い奴を探すならアヒル広場なのになぜここに来たお!」


「だから勘だって!ここに来れば何か起こる!そんな気がした!」


「なんたるアバウト!」


 第五話

 その11 逆上

 終わり

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