第83話 第五話 その10 最後まで送ってくべきだお?

「よし行くぞ!」


「おうだお!」


 ある程度の目標は決まった。戦える奴らを探すならやはり部隊の詰め所近辺か?そこへ行くのが妥当だろう。

 足元に次々と迫りくるグソクを槍で退けながら進んだ。


「きゃあああーーーーーー!誰か!誰か助けてー!」


 詰め所まであと数分!というところでまたも悲鳴が飛んだ。


「今度はどこだ!また悲鳴が近かったぞ!」


「右手から聞こえたようなだお!?」


 足元のちゅん助が感覚を頼りに先行していく、右手の通路に折れると、今度は女性が囲まれている!

 あちこちでこのような状況が繰り広げられていたがほとんどが手遅れであった。

 

 が!


 この女性は間に合うかもしれない!


「この!」


 ズバシュ!

 ザクザクザク!


 グソク達は女性に気を取られている分、楽に駆除することが出来た!が、遅かったか‥‥?


 女性は白い服を着ていたが、身体の至る所が赤く染められていた!!


「大丈夫ですかッ!出血!?遅かったか!」


 その女性は顔を青ざめさせており白い肌に、その青さが余計に鮮明に浮き出ていた。

 ブルブルと身体を震わせており、今にも倒れそうだった。俺は女性の身体を支え話しかける。


「どこをやられた!止血を!」


 女性は震えながらも首を横に振りなんとか意思表示をする。


「だ、大丈夫です…」


「しかし!こんなに血が!」


「血!?」


 女性は改めて自分の身体を見つめると、ああっ!と驚きの声を上げたがすぐに否定する。


「こ、これは違います!…」


「誰かの返り血でも浴びましたか!?」


「い、いえ…これは…」

「これは先程、逃げている途中にグソクとの戦闘があって」

「その中に赤いグソクが居たのです!」


「イズサン!」


「赤ですって!?」


「はい…その中の1匹に襲われた時、助けて頂いた際に、赤いグソクの体液を派手に浴びてしまったようで…」


「………なるほど」


「赤は!」

「赤い奴はどこに居たんだおっ!?」


「そ、それが…私はこの街に一昨日着いたばかりでして、この街はどこがどこやら…」


 一昨日はずっと雨が降り続いていた日だ。その様な日ではまともに出歩くことはままならなかったのだろう。街に不案内なのは当然だ。それにしても、とんでもない時期に街に来てしまった不運な人だ。


「…慌てて逃げて来たので、確かな事は言えませんが…赤い蟲には広場の様な場所で襲われました」


「広場ですか…」


 といってもこの街には広場はいくつかある、どこだ…


「どちらの方向から逃げて来たんですか?」


「大よその方角しか分からないですが、この通りを曲がってこちらの方向のはずです」


 女性が指を差した方向には、確か小川が流れる小さな池のある広場と時計塔のある広場、二つがあったはずだ。


「池ですか?時計塔の広場ですか?」


「小さな池があったような気がします」


「アヒルの広場だなお!」


 どうやらこの女性は池の広場で襲われた様だった。


 広場か…


「いずれにしろ、ここは危険です!」

「教会に一時的な防衛ラインが敷かれています。そこまではお送りします!」


「あ、ありがとうございます」


 俺達は女性を送るため再び教会へと向かう事になった。なんとか教会まであと少しの道にたどり着くと女性が言った。


「こ、ここからは見覚えがあります!」

「なんとかたどり着けます、ありがとうございます」


「しかし、あと少しとは言え危険です!」


「大丈夫です…」

「それに貴方は勇者様なのでしょう?」

「もっとやらねばならない事がおありなのではありませんか?」


「え!?何故それを?」


「小耳にはさんだのです」

「ええと…その、なんというか」

「この街におられる勇者様はぬいぐるみを連れて歩いておられると…」

「その…あの…変わり者だとか…」


 はあああ!?変わり者だとおお!?それはちゅん助であって連れてる俺は至ってまともですが!なにか!?


「わしはぬいぐるみじゃないお!」

「あんな中に盗聴器を仕掛けるもんと一緒にすんなお!」


 足元でプンプンとちゅん助が飛び跳ねている。ちなみに未だに平衡感覚が戻ってないらしく、俺の頭上に乗って楽したくても乗れないらしい…


「盗聴器って、お前…」


「私は大丈夫です!お急ぎを!」


「……分かりました」


「おいおい!あと少し送って行かないのかお?」


「ここらはひとまず落ち着いている、それに赤が居るとなると…」


「たしかに赤が来てるのはまずいお」


「だが!手掛かりがあるかも!」

「ちゅん助!耳を貸せ!」


「は?」

「なんだって!?」

「なんでそんな事を???」


「良いから!やってくれないか!」


「わかったお…」

「………」

「ちゅーか、さっきから絶界弧闘ぜっかいことうを使って探してるんだお!」

「クタクタだお!それらしき奴は見つかってないお」

「だいたいな!そんなデカい奴が居ればすぐ見つかるはずなんだお!」


「街のどこかに、特に異変がある様なとこは無かったか!?」


「う~ん?そんな遠くまで行けないけど」

「やっぱアヒル広場で激しい戦闘があったみたいだお?」


「そうか…」


「すいません女性の方!俺達は行かねばなりません!」


「おいおい!ホントに送ってかないのかお!?」

「女性を送る場合は相手の家まで送って!」

「扉が閉まるまで見送るのが紳士の鉄則だお!」


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「ああ!」

「だが!この状況、このままではじり貧だ!」

「はやく根源を解決しなきゃ、どのみち全滅だろうが!」


「いや、でも~この女性を最後まで送ってかないなんて…」


「私は大丈夫です!それより、なすべき事を!」


「……」


「いやいや、ここで置いてくのはまずいお!」

「最後まで送ってあげてから、駆け付けるお!?」


「うるせえええええええええーーーーーーーーーーーーー!」


「!」

「!」


 第五話

 その10 最後まで送ってくべきだお?

 終わり

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