第86話 第五話 その13 居ないって! 

「奴は居る!」


 ズシュ!


 1匹また1匹と俺の槍がグソクを絶え間なく倒していた。


「だがそんなデカい奴、どこに隠れとるかお?」

「…木馬が逃げ込んだドーム球場みたいな建物は無いお!」


「頼む!俺達が戦ってるうちに、また手掛かりを見つけてくれ!」


「人使いが荒いお!絶界弧闘ぜっかいことう乱発したらあっという間に動けんくなるお!」


「今、アイツらの目を盗んで動けるのはお前しかいないんだ!頼む!」


「クソ!やるしかないなお!」

「そこまで言うならデカブツなんざすぐ見つけたるお!」


「頼む!!!」


「おうだお!」

「勝利の栄光を貴様に!」


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「ちょっと待て!」

「それ謀り事するやつじゃねーか!」


 ちゅん助は絶象を使ってあらゆる事象が止まった時空の中を探し回った。

 

 時計塔内部

 周辺の建物全て

 高台

 側溝

 茂み

 藪

 目についた場所

 思い付く限りの空間


 彼の体力のかなりを消費して。


 注意深く、目を皿のようにして、考え付く限りの色々な可能性、思いも付かない場所。


 小さい体ではフルマラソンどころかウルトラトライアスロン並みの体力を消費して!


 探し回った!

 

 が…


(駄目だお…どこにも居ないお)

(それどころか青、黄、赤、変わった特徴の個体すら見つからんお)

(居るのは、どこもかしこも灰だらけ…あかん、限界だお…)


「イズサン…アカン…ガチのマジでヘロヘロだお」

「どこにも居ないお~居るのは灰だけ~灰だらけ~しんでれら~」


 勝利の栄光を!


 と言ってから1秒も経ってない気がするが…声の感じからちゅん助がヤバいくらい疲労してる事が分かった。


 彼は目聡い奴なのだ、そのちゅん助がフラフラになるまで探し回って手掛かり一つ無しとは…状況は相当マズイ、手詰まりか…


「だいたい~デカい奴なんて~居ないってばよ~!」


「色付き以外の…変わった個体とか怪しい動きする奴とかも居なかったか!」


「どんだけ居ると思っとるんだお!いちいち一体一体チェックしとれるかお!」

「あと動きとか言っても!探してるときは皆止まってるから動きなんか分かるわけないお~」


「変わった個体は!?」


「だから!どんだけ居ると思ってるお!」

「灰だらけだって!」

「もし違う奴がいるとしたってこんだけ居るんだお?」

「砂漠で砂金ひと粒見つけろってか~!!!」


「くそ!手掛かり無しか!」

「どこだ!どこに隠れてる!」


「だから居ないんだってばお~!」


「どこだ…どこだ…見つけないと俺達の負けだ…」


「さっきから!居ないちゅーとろーが!!人の話聞いとる?」


「お前ならどこに隠れる!?」


「居ないって!」

「大王も蟲の王も伝承だけの話だお!」

「おまえもしつこいお!木を隠すなら森の中かおw」


「!」

「今なんて言った!?」


「大王は居ないって!」


「違う!その後!」


「木を隠すには森の中って、昔から言うだろうがお!」


「それだ!」

「それだよ!ちゅん助!」


「え!?」


「青黄赤という変わった個体が居たからボス個体もきっと特徴的な奴に違いないと思っていたけど!」

「そうじゃないのかもしれん!」


「灰色の中に紛れてるって事かお?」


「可能性が高い!」


「知っとるかおイズサン!」

「昔ラジオでヒラメやカメレオンが周囲の背景に溶け込んだ色に体の色変えても」

「それが本当に溶け込んどるかどうか?」

「第三者に見てもらわな分からんはず、誰に見てもらってるのかお?っていう話しとった!」


「擬態の事か?言われてみるとそうだが、誰が見てるんだ?」


「わしも最初はなるほど!」

「誰に見てもらってるん?と、そう思ったが、後々考えると自分で見比べるだけだお!って!」


「いや、自分で見られるのか?」


「奴らは魚眼だとか複眼だとか、とっても広い範囲見られるお!」

「別にそんな眼持ってなくても人間だって手足と周囲の色くらい見比べられるお!」


「はあ!」

「確かにそりゃそうだ!で、何が言いたい!?」

「擬態!擬態してるって線か!?」


「でも!おかしいお!灰色だったら確かに見分けつかんけど」

「一般兵に紛れとったら大将自ら最前線に立たんといかんお!」

「おまえだったら、そんな危険な事するかお!?リスク取るかお!」


「そりゃそうだが…」


「わしなら!もっと安全なとこでコソコソ指示したいお!」


「でも!」

「お前はいっつも勝利の神様の提督は日本海海戦で砲弾行き交う甲板上で!」

「最前線で命を賭けて指揮を執った!あれが真の指揮官の姿だ!って言ってたじゃないか!」


「それは!後がないここ一番での話だお!」

「こんだけの戦力差があってノコノコと最前線に出て来る指揮官が居たら!」

「それはアホだおw!あほ!」

「極ブラの会長なみのアホだおw!」

「この状況!」

「わしだったら絶対の安全圏でぬくぬく軍配を振るおw!」


 ちゅん助の言う通りだ…


 遠隔操作でグソク達を操れるのなら、わざわざ撃破の可能性のあるこんな最前線に出てくるのは危険だし、おかしい。


俺の推理が間違っていたのだろうか?

 

 だが!だとしたらずっと受けているこのプレッシャーは!?刺す様な視線はどこから感じるんだ!?トドメを刺したいなら傍にいるはずなんだ!


 何か見落としてる、何か大変な事を見逃してないか…


 激しい戦闘区域でも安全な場所…

 見落としている場所?

 探せない場所?

 いや探そうともしない場所…


 分からない…


「ちゅん助!この場で何か不自然な事は無いか!?」


「しつこいなお!」

「ない!ない!ない!」

「居ないったら居ないんだお!」


「頼むよ!」

「何か見落としている点は!?」

「不自然な点は!?」


「しつこーーーーーーい!」

「不条理な点ならあるお!」


「なんだ!?」


「おまえがわしの忠告を聞かず、こんな地獄に飛び込んでこのザマになった事だお!」


「それはいいって!」


「美少女と逃げとれば天国だったお~」


「お前…自分さえ良ければいいの?」


「いいお!」

「ヒートアップガールズの不動のセンターがまゆしりぃも言ってたお!」

「自分が幸せでない人は!決して他人を幸せにする事は出来ないって!」

「むしろ!」

「自分だけ良い方がさらに良いお!」

「皆が良かったら!自分の幸せが薄まるお!」

「自分が普通でも周りが超絶不幸なら!」

「わしは幸せなんだおw!」


「………」

(友がこれほどまでに歪んでいた事に衝撃を隠せない件…)

「お前!」

「大体!そのユニットだったら圧倒的ビジュアルを持つはちみんが良いって言ってたろ!」

「あと名言を都合のいい様に悪用するんじゃないよ!」


「ふん!昔の事は忘れたお!」

「不自然だと!?」

「しいて言えばグソクの死骸のあの山!」

「この惨状でどこの暇人がこんなにうず高く積んだんだお!」


「あ!」

「あ!」


 第五話

 その13 居ないって! 

 終わり

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