第75話 第五話 その2 籠城
「なんじゃあああああ~!こらああああ~!」
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今度はちゅん助が慌てる番だった。途方もない数のグソクを見て飛びあがって手足をバタバタさせる。
「イズサン!なんで街中に!こんなにグソクが居るんだお!」
「知るか!起きたらこうなってた!」
俺達は呆然と地面で暴れ回るグソク達を見つめていた。
「おい!イズサン!夜中なのに目を真っ赤にして…」
「こいつら平原に居る時より遥かに凶暴化しとるがな!」
「目が真っ赤!そういや俺らが囲まれて一斉に襲われた時と、雰囲気が全く一緒だ!」
「街中でこんなに暴れられたら不味すぎるだろ…」
窓から辺りを見回しながら立ち尽くすしかない俺達の耳に、方々から発せられる悲鳴や怒号が伝わってきた。
「助けてー!」
「どうなってるんだ!なんでグソクが街中に!」
「凶暴すぎる!危険だ!」
「と、扉を破られたあああ~!」
「ぎゃあああ!脚がああ!」
「おとうさーん!わーん!こわいよー!」
恐ろしいまでの各地で切迫した状況が次々に耳に飛び込んでくる。
「えらいこっちゃあ!えらいこっちゃあ!」
「えらいこっちゃだお!」
ちゅん助も混乱して床をぐるぐると走り回った後で言った。
「どうするかお!」
「どうするって…」
「逃げる!」
「戦う!」
「留まる!」
「この三つくらいしかないと思うお!」
「こまんど?」
「ああ…ああそうだな!」
どうしたら良いのか自分では全く判断付かなかったが、正解があるかどうかは分からなくても選択肢を示してくれると思考の余地が生まれる。
(逃げる…どこへ?)
(戦う…この数で単騎では…)
(留まる?…ここはもつのか?)
考えがまとまらない…どれを選んでもその先には不安しか浮かばない!
「と、とにかく扉だけでもベッドで封鎖するお!」
「そ、そうだな!」
「よいしょ!よいしょ!」
「クソ重たい!オラアッ!」
俺はベッドをありったけの力で扉まで引きずると90度横倒しにしてから扉へと押し付けた。
グソクの歯は丈夫であるが短い。扉とベッドを盾にすればある程度の時間は稼げるはずだ。
「こ、これでなんとか持ちこたえれるかもしれんお!イズサン!身支度しろお!」
「わ、分かってる!」
「鞘に爆人石セットだお!わしのパチンコと爆人石弾も用意して欲しいお!」
「わ、分かった!」
「爆人石弾てのはなんだ!?」
「ぬわにい~?いっつも飯時に爆人石を基にわしが開発を重ねた強力な武器の話してやっとったやろーが!」
たしかにそう言われてみれば、俺が爆・斬突の改良や新規開発にあまり乗り気じゃなかったので適当に聞き流していたのだがなにやらわいのわいの言っていた気がする!
確か道具屋で精霊石を加工した時に出る、屑粉をもらってきては爆人石と混ぜ合わせて超強力な配合を発明した!とか言っていた気がするが、あまりに大袈裟な話をするのでてっきりいつもの厨二病の妄想と思って聞き流していたのだった。
「てっきり妄想の話かと思ってた!」
「妄想ちゃうわ!」
「どこにあるんだ!?」
「いつもの冒険者セット入ったバッグに入れてあるお!」
「そうか!」
「ってお前!そんなアブネーもん、いっつも俺に持たせてたってのかよ!」
「安心するお!暴発しても死ぬのイズサンだけやねん!」
「余計悪いわ!くっそ!」
俺はしぶしぶ言われた通り剣や短剣を身に付けちゅん助用の武装も身に付け、いつでも飛び出せる準備を手短に済ませた。
「状況は!?」
窓の外を注意深く覗いているちゅん助に尋ねる。
「良くないお!」
「あっちこっちで扉を破られて侵入されとるみたいだお、ここも時間の問題かお!」
「かなり、もうすでにそうとうな犠牲者がではじめとるようだお…」
「そんな…どうして…」
「警備隊か防衛隊はなにやっとるかお!」
「た、確かに…」
「いや!」
「ガレッタ隊長の話ではグソクの駆除に投入されて防衛隊は機能してないって言ってたよな!」
「だからと言って立派で丈夫な石垣で!」
「防壁で守られてるこの街がこれほどまでに短期間で!」
「しかもガンガンに!グソクに侵入されるなんておかしいお!」
「あのガレッタとかいう隊長も使えんお!」
「わしらの話聞いてちったあ警戒しとるかと思いきや、これかお!」
「ああ、ほんとにだよ…」
「どうして、ここまで…びっしりじゃないか!」
俺達は宿で2階の部屋だったことに少し安堵しながら地面の様子を眺めた。
「と、とにかく籠城だお!籠城戦なんだお!」
「わしは前の世界で自宅警備員やったんや!」
「……」
「そして自宅警備員の中でも最高ランクの自室警備員や!」
「籠城戦はわしの十八番やぞ!」
「穴熊ちゅん助とはわしの事やでw!」
「……」
「なんやイズサン!」
「グソクどもは階段は登ってこれても壁は登ってこられへんのやぞ!」
「奴らは無駄に大きいからな!カブトムシくらいやったら飛べるし難なく壁を登って来るが」
「体デカい分、重力の影響は大きく受けるし、空気の浮力はあまり受けられんから垂直な壁はまず無理やて!」
「つまり!ベッドで封鎖した入り口さえ何とか守っとれば!」
「少々破られても飛び込んでくるグソクさえやっつけとれば!」
「そのうち入り口は死骸で埋まってそれ以上は入ってこれんちゅー寸法やぞ!」
「た、確かに!流石だ!」
ちゅん助は厨二病を患っているだけあって、あり得そうにない事態や展開を無駄にシミュレーションしているので非常事態の判断が速い、これは助かった。
「ぶわーはっはっは!わし程の天才になると危機対処も万全だおw!」
第五話
その2 籠城
終わり
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