第76話 第五話 その3 勇者への期待

「ぶわーはっはっは!わし程の天才になると危機対処も万全だおw!」


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 街の様子はますます混乱が酷くなっていた。あらゆる場所で悲鳴と叫び声が飛び交っている。

 そしてあちこちで上がる火の手がガリンの街を照らし始めていた。


「しかし、なんちゅーこっちゃあ!えらいこっちゃあ!」


 再びちゅん助が床をぐるぐる走り回る。


「元はと言えば!イズサンがスケベ根性出して治癒士ヒーラーとの面接を!」


 ちゅん助が責任を押し付けようとしてきたその時だった。


「うわあああ!グソクが2階の窓から!なんで!?なんで上がってこれるんだあああああああ!」


 とんでもない悲鳴が飛び込んできた!!!


「に!2階やと!?」


「ど、どこのっ!?」


 俺達は慌てて窓に駆け寄って周囲を探ると左手の道向かいの宿の前に、巨大な塊が出来ているのが見えた!


「!」

「!」


 その塊は、なんと!


 グソクの群れが一塊になってピラミッド状の勾配を形成していたのだ!

 その背を渡って次々とグソクが2階の窓へと侵入している姿が目に飛び込んできたのだ!


「な!」


「なんという!」


 グソク達は1階の扉からからの侵入が難しいと見るや、上がってしまいさえすれば簡単に破壊できる窓のある2階へと即座に侵入経路を変えたのだ!


「あ、アカーン!」


 ちゅん助が頭を抱えてこけた…


「危機対処がなんだってー!(棒)」


 グソクは2階には上がってこれないんじゃなかったのか!そう叫びたかった。


 自分達の体を巨大な踏み台としたグソク達は次々に屋根を伝って左右へと展開しだし、両隣の建物に侵攻していく。




 そしてついには俺達の宿まで侵略を開始したのだった!





 こうなると部屋にグソクの侵入を許すのは時間の問題だ!数匹を切って捨てたところで向こうは無限に刺客を送り込むことが出来るのだ。

 狭い室内で戦闘を継続するのは不利だし、ベッド側の扉が破られたら室内で挟み撃ちなのだ!


 しかし、かといって外に出て戦闘を行うのが正解だろうか?俺はちゅん助を見つめたが彼もまた迷っている様子だった。が、決断の時はすぐに訪れた。


 ベッドの向こうの扉の外でガサガサと不快な音がしたかと思うとガリガリという恐怖の音に変わる!


 外は外で屋根伝いにグソクが迫ってきていた。扉と窓、両方向からの挟み撃ちを喰らったら、いくら相手がグソクとはいえ凶暴化もしている今、籠城も得策とは思えなかった。


「ちゅん助!仕方ない、脱出するぞ!」


「お、おう!」


 俺達は窓から飛び出すと雨どいを伝って何とか地面に降りようとするが、地面に爪先が付くか付かないか?という時にグソクが数匹バラバラと俺に向かって降ってきた。


 慌てて飛び降り着地もままならないままに剣を引き抜く!


 ズサッ!

 ズシュッ!


 頭をかじられる寸前で空中のグソクを迎撃することに成功!


 ズシュ!

 ズシュ!

 ズシュ!

 ズシュ!

 ズシュ!

 ズシュ!

 ズシュ!

 ズシュ!

 ズシュ!

 ズシュ!


 続いて即座の連突き!連突き!


 密集地帯は目を瞑っても当たるんじゃないかと言う夥しい数…一体…街中にどれ程のグソクの侵入を許したというのだ!


「イズサン!どうするンゴ~!どうするンゴ~!」


 咄嗟の事態に強い(設定の)はずのちゅん助も流石に判断が付きかねている様子だ!


「どうするったって…」


 俺の方もノーアイデアだ、ただひたすらに迫りくるグソクを斬って、突いて、刺すしかなかった。


 いつも平原で狩っていた雑魚蟲のグソクではない、囲まれた時の凶暴化したグソクなのだ。斬っても、突いても刺しても次々と迫って来る!


 あれほどその死骸の売買で街に莫大な経済効果をもたらした被食者のはずのグソクが、いまや完全に捕食者へと立場を変えて、俺達や街の人々に襲い掛かっていた。


「い、イズサン!ここは…」

「教会とか強固な建物に移動してそこで籠城するか」

「詰め所に駆け込んで戦える奴と共闘するか」

「侵入経路が一つしかない場所に入り込んで迎え撃つか」

「あとは一か八か街の外へ逃げ出すか」

「それくらいしか思いつかんお!」


 どれもこれも簡単な話ではないように感じるが、混乱している頭に選択肢が提示されるだけでも有り難い。


 俺の頭上に陣取って戦わない分だけちゅん助には冷静な判断が出来ている!


 しかし、選択肢があればあったで、どれを選択するか悩ましい…どれを選ぶかで生きるか死ぬかが決まるかもしれないのだ!


 即座に選択は無理だった、かといって行動を起こさなければ、今いる場所では前後左右、そして上方から襲い掛かられるリスクがある!


 留まっているだけでは確実に死に近付くことだけは理解できる、どうすれば…どうすれば?どうすれば!


「たすけてーーーー!」


 困惑する俺達の耳に、子供のものと思われる助けを求める悲鳴が響いた!


「なんだ!どっち!?」


「左手の方から聞こえた気がするお!」


 ちゅん助が指す方向へ慌てて駆け付けると、少女が壁際で今にも喰い付かれそうな距離でグソクに囲まれていた。


「いけない!」


 ズバシュ!

 ザシュ!


 直ちにグソクの群れを斬り分けるようにして少女にたどり着き確保する。


「お嬢ちゃん!大丈夫か!」


「う、うん…」


 少女は恐怖に震えてはいたがはっきりと答えた。


「間一髪だなお」


「君!家族は!?」


 この状況下で家族など居てもどうにかなるとは思えないが、一人で行動させるよりは…


「お父さん、お兄ちゃんとはぐれてしまって…」


 こんな幼気な少女すらはぐれさすような街の状況は、既にまともではない!


 混乱が始まってそれ程時間は経っていない筈なのに状況はもう最悪レベルだ!


 俺達は少女を教会まで何とか連れて行くと、教会には予想通り街の人々が集まり何とか防衛線が敷かれていた。中は既に老人や女、子供達で一杯であり俺達の様な何とか戦える者はとても入れる状況ではなかった。


「お嬢ちゃん、ここで…」


 俺が中に入るように促すと少女は不安そうに心配して尋ねてきた。


「お兄ちゃん達…は?」


「俺達は外で中の皆を守るように何とかするさ…」


「なんとかするお…」


とは強がってみたものの、どうするか…正直言って民衆を押しのけてでも教会に入りたいくらいだった。


 討伐隊は何隊も編成されてはいるものの殆どが傭兵部隊で、ガレッタ隊長の様な正規の防衛隊が討伐隊に駆り出されていた今、この街にまともな防衛機能が働いているなどとは思えなかった。いや働いていないからこその、この惨状なのだ!


「大丈夫なんだよ!おにいちゃん!」


「え?」


 先程まであれほど震えていた少女の意外な言葉に驚いた。この状況で何が大丈夫なのか?


「お父さんが言ってた!」

「この街には勇者様が訪れているんだ!」

「きっとなんとかしてくださるだろうって!」


「は!?」


「は!?」


 第五話 

 その3 勇者への期待

 終わり

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