第61話 第四話 その22 勇者の天令
「おい、この鈍間!早くしろって言ってるの!」
短気な少女が苛立ってきている。素直に従うしかなかった。
南無三!
ちゅん助はともかく、俺は悪い結果など出ないだろう…イヤ出ないはずだ!何故ならこの世界でも前の世界でも、俺は真面目に生きて来たのだ!
ちゅん助と違う!
俺は意を決して石に触れた。触れた途端、石は波打つような輝きを放ち始めた。
「天令!いずみあきら!むっつりすけべ!w」
「黙ってろ!」
なにがむっつりスケベか!しかし、まさかそんなふざけた天令が下るのか?
だとしたらドチャクソ恥ずかしいんだけど…
俺はレースクイーンの尻とか下乳とか撮影してないぞ!
禁止されてても平気で動画撮影までするちゅん助とは違うのだ!
俺の撮影会参加はあくまで美しいモデルを芸術的に!そのつもりだが…?
石が激しく光を発する。
「こ、これは!」
「これって!?」
係員と少女に緊張が走ったようだった。その様子から、この輝きは普通ではないようだった。
「天令!はCMの後!」
「天令!続きはウェブで!」
「天令!次週w!」
ちゅん助のギャグは俺以外誰も分からないし、そして面白くもない。本人だけが猫を抱えて大笑いして大受けしてるようだが…
こちらはそれどころではない!
「出ました!これは…大変な事です!」
係員が深刻な表情で石を見つめている。
何故だ!?
俺は悪い事は何も、まさかグソク殺し過ぎとかあるのか!?だったら他の隊員や、その少女なんて何万倍と葬ったはずだぞ!?
「あなたは…」
「貴方様は…」
ゴクリ
「は、はい~」
思わず声が震えてしまう!
「貴方様は…」
焦らすんじゃないよ!CMは挟まんでくれ!
「
「メシアの勇者ぁ!?」
少女が驚きの声を上げた。
メシアの勇者?なんだそりゃ!?
この世界はゲームみたいなシステムは無いはずだし、勇者なる御大層な地位は何の努力もせずに得られるんか?
あまりにご都合主義が過ぎやしないか…
「おお!凄いお!凄いおイズサン!」
「またまたSSR引きよってからに!」
ちゅん助が無邪気な表情で羨望のまなざしを向けている…
アホ!SSRだと?ゲームじゃない事はお前も重々承知だろうに!
「救世主で勇者かお!ダブルSSRじゃないかお!」
「アホ!知らんわ!大体な!」
「SSRってのはダブルスーパーレアって意味だ!」
「ダブルが重なってんぞ!」
いきなり勇者とか言われても困惑するだけだ。
なにしろこの世界に来て肉体が若返った以外は、なんの変化もないのだ…勇者ならそれなりの特典つけてくれても良いではないか…
いや!記憶を持ったまま若い肉体、ある意味、強くてニューゲームか!考えようによってはもの凄い特典ではあるが、できれば元の世界でお願いしたい!
そうだよ!
それ以前に!この世界ではもう二回も死にかけてるのだ!勇者と言う奴がそういう困難な目に遭う状況を引き寄せる迷探偵コ〇ン体質であったとしたら、恐ろしいことこの上ない!
厨二病はちゅん助だけで十分なのだ!称号を返上できるなら遠慮申し上げたい…
特別な能力もないのなら、人生普通が一番だ!
「アンタみたいな間抜けが勇者だなんて!」
「世も末な事だわね!」
仰る通りなのだが、こうもハッキリ言われるとそこそこ辛い。
「わしも続くお!」
「え!?」
とんでもない事をちゅん助が言い出した。
勇者である!
という事にすれば、少女をなんとか誤魔化してこの場を立ち去ろうという算段を考えていたのに、これでちゅん助が石に触れてなんか悪い天令でも出たらまた話がややこしくなる。
コイツにはそれが全く分かっていない様子で、ガチャ引きたい病に罹っているだけに見えた。いいや!完全にガチャ引きたい病だ!まずい、なんとか阻止しないと!
「負けんぞ!わしは負けんぞ!イズサン!」
「わしはダブルSSRどころかトリプルUR引いてみせるお!」
「ばかばか!やめろって!」
「アクリムで何やってきたか忘れたんか!」
「は?アクリム?」
「ほうほう、となるとわしの称号は」
「常勝の天才戦略家かお?不敗の魔導士かお!」
「どっかで聞いた様なふたつ名を持ち出すんじゃないよ!」
「そんな都合のいいもんが出るもんか!」
「さしづめ謀略家か」
「いいとこ腐る方の腐敗が出るだけだぞ!」
「とにかくよせ!」
「やっぱり!あんたら!」
「アクリムで何かやって来たんじゃない!」
「あやし~ッポ!」
「ぎわくッピュ!」
「え?いやいや!」
「そうじゃなくて!だって俺、勇者だって!」
「はあ?勇者の天令が出たからってデカい顔すんじゃないわよ!」
「天令は、あくまで進む道を示してくれてるだけよ!」
「他にも自称勇者様はいっぱい居たし」
「道を踏み外した奴だってゴマンと居るわ!」
「私が会った奴でも、ろくな奴は居なかったわよ!」
「え!?」
な、なんというインフレ!勇者の叩き売り!実はほんの少しだが…あくまでほんの少しだけだったが、喜んでしまった自分が恥ずかしい…
「ぶわーはっは!イズサン、どうやら偽SSRかハズレSSRだったらしいのw」
「う!うるさい!」
「真打は、常に遅れて来るものだお!」
「そう!このわしの様に!」
「ふふん!わかったかこの偽勇者めが!」
「ニセとか言うな!」
「似非勇者めが!」
「エセとか言うな!」
「自分の胸に手を当ててよ~く考えてみい!」
「どこの世界にしょんべん漏らして下半身ずぶ濡れになる…」
「わあー!わー!わあー!そんな事言わなくても!良いだろ!」
「貴様はそこで、わしが真のSSR引く瞬間をあほづら晒して見とればいいんだお!」
「あかんて!アカンて!やめとけ!ダメだって!」
「ふふふ、イズサン!わしも男じゃけえのお!」
「イイと言われると顔に!」
「ダメだ!イヤだと言われると!」
「思いっきり中にブチ撒けたいもんじゃけえのおw」
「お前!なんか違う話してないか!?意味不明やぞ!」
「わからんか?」
「分かり易く言うと!」
「レイなら顔に…」
「アスカならしこたま中に!」
「おっおっおっw」
「レイとアスカが誰か知らないけど!」
「私の顔見て下品な事!言わないでくれる!」
「ほう?なぜ下品と分かるお?」
バシ!バシ!バシ!
「ひ、ひたいお…」
調子に乗ったちゅん助が、ま~た少女の高速往復ビンタを貰った…
「と、とにかく!よせってちゅん助!」
「お?お?イズサン!びびってるお?ビビってるお?」
「わしがお前の勇者SSRをオーバードライブしちゃるのビビっとるお?」
「び!ビビってねーし!」
思わず強がってしまったが、オーバードライブはさておき、内心、石が濁って少女にどこぞへ突き出される展開が待っていると考えると恐ろしい。
「ははーん?イズサン!さてはお主、わしがUR引き当てるの、恐れてるな?」
「は?」
「天才戦略家でも魔導士でもないとすれば、我が姿さしずめ神獣!麒麟が来たお!」
「アホか!キリンは馬みたいな奴だろ!」
「不死鳥!ゴッドフェニックスかお!」
「お前!鳥じゃない設定どうした!」
「まさかわしは恐怖の魔王、いや邪神!」
「闇のSSRかお!逆にカッコいいおw!」
「
「てか!そういう結果が出るのを激しく危惧してるんだよ!」
「ふっふっふイズサン!いやメシアの勇者よ!」
「おまえに私怨は無いが最強の!幕末最強の勇者として、イズ刀斎!ここで死んでもらうお!」
「最強の称号をこの手にするまで!」
「わしたちの戦いは終わらないお!」
「またそれかよ…」
「だまるお!御庭番集を束ねる者として…」
「一切、束ねてないし、幕末でもない件!」
俺はちゅん助の異常なまでの現実世界のSSR引き競争の執着心を思い出した。
おまえばっかSSR引きよってからに!などと、いつもしつこく言ってるのだが、コイツがSSR引いた時は朝方の4時にメールを連発して送って来やがったのだ。
コイツはそういう奴なのだ…
つまりはちゅん助は、勇者判定を受けた俺に嫉妬の炎を燃やしているのだ。
冷静に考えれば、どのような判定を受けようが、能力が上がったりスキルが授けられるわけではなかった。
少女を手玉に取ったちゅん助の、訳の分からない能力の方が遥かにSSRっぽくて圧倒的に凄いのだが、男の嫉妬心はそれに気付かない…
(あかん…)
こうなった時のちゅん助は、しつこい。
天令石に触らせなかったら、後々までいや末代まで蒸し返してネタにしてくることだろう…
第四話
その22 勇者の天令
終わり
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