第60話 第四話 その21 天令石

「あんたらほんとにいったい何者よ!?何者なのよ?」


 少女は怒りというより、困惑の表情を浮かべ尋ねてきた。


「いや、何者と言われましても…」


「た、ただの旅人なんだお~」


「ふざけないで!ただの旅人は、特別信者の証なんて持ってない!」

「なにより、この通信石に入ってる金額がとんでもないのよ!未だに不気味なくらい増え続けてる!」


 ちゅん助発案のアクリムの御守りは、どうやら教会からの正規の後ろ盾を得て売り上げが絶好調らしく、価格が10分の1、取り分1%であってもかなりの金額が入ってきていたのだ。


「いったいどこから盗んできたの!」

「それとも、とんでもない悪事働いてんじゃないでしょうね!?」


 正直にアクリムでの御守りマッチポンプ事件について話すべきか少し迷いはしたが、余計な事を話すとまた話が拗れると厄介だ。


ここは穏便に済ませよう。


「それは盗んできたんじゃなくて、こいつの商売の結果なんだ」


「商売?」


「アクリムの街で、火事除けの御守りを考案してきたんだお!わしが考えたんだお!」


「アクリムの?」


「そうアクリムで」


「確かに、アクリムで100年以上起きてなかった火事が、最近起きたらしい事は小耳にはさんだけど…」


「その混乱に乗じて、御守り売りまくったんだおw!」


(その「混乱」とやらは、お前が作ったんだけどな!)


「そして今、金額が増え続けとるのは、御守り事業を教会さんに譲渡して、売り上げの1%を貰ってるからだお!」


「ほんとにぃ?」


 なおも少女は訝しげに俺達を見つめている。


「わしはアイデアマンなんだお!」


「でもこんな金額…」


 額の大きさに、少女は困惑している様だった。


「お嬢ちゃんが勝負に勝ったんだから、残念ながらそれはお嬢ちゃんの物だお」

「わしは助けてもらってないけど友達のイズサンを救ってもらった事と、お嬢ちゃんのおムネの触り心地を…」


 バシ!

 ぎゅううううううううう!

「ぐああ!」


 ちゅん助は真上から思い切り叩かれ、そのまま机に押し潰された。


「か、考えたらその金額は、うぐぐ!妥当!」

「ぐぐぐ、だお…だから…許してほしいお…」


「ファイアン!ウィンディ!コイツら嘘言ってない?」


「言ってないようだっぽ、とくにエロピヨの方はまったくどうようしてないぽ」

「どちらかというと主人の方がきんちょーのどあいがすごく高いぴゅ」


「ふーん?」


 少女が俺を見つめた。


 まずい…


嘘と妄想ばっか言ってるちゅん助と違って、嘘が苦手な俺はこれ以上追及されると本当の事を話してしまいそうだった。


「うぐぐ…死ぬお…死んでしまうお…」


「まあ、いいわ。でも何者か確かめるまで安心してこの石使えない」

「来なさい!」


 少女がちゅん助を抱えて出て行くので、仕方なく後を追う。


「ええと、どこへ?」


「教会の天令石で確かめさせてもらうわ」


「テンレイセキ?」


「あんたバカぁ?ほんとに何にも知らないのね」

「天令石ってのはね」

「特別な職に付く人や使命を持った人間に反応して、己が何者であるか示してくれたり」

「逆に嘘や偽りを持った悪党が触れると醜く濁る性質があるの」

「アンタらにはそれに触れてもらって、何者なのか確かめさせてもらうわ」

「兎に角、特別信者とか莫大な額とか!」

「アンタら胡散臭いのよ!」

「ゲロ以下の臭いがプンプンするのよ!」


「うさんくさいッポ!」

「うさんくさいッピュ!」


「匂う!匂うお!」

「おっおっおっお嬢ちゃんはとってもいい匂いが…」


 ぎゅうううううううううううううううう!

「ぐああああ!」

 少女は教会の食堂を出て講堂まで足を運ぶと、講堂脇にあるカウンターまで歩を進めた。


 カウンター上には氷柱状のやや黄色がかった透明な1m程の石が置いてあり、どうやらこれが天令石らしい。

 照合石は丸く磨かれた球状で水晶のようであったが、形状は全くの別物であった。


 カウンターには係の者が居り、机上には教会が飼っているのか白猫がすやすやと気持ちよさそうに体を丸めて眠っていた。


「おお!イズサン!ねこだお!ねこだお!」


「ああ、猫だな」


 猫好きのちゅん助が少女の手からスルリと抜け出すと、大喜びで猫に近付き撫で始めた。

 白猫は一瞬、にゃ?といった感じで警戒したが、撫でられて気持ちよさそうなゴロゴロという音を出している。


「ねこだお~wかわいいお~w」


 ちゅん助は夢中になって猫を撫でている…


 今はそういう時じゃないだろ!疑いを晴らす時だろ!と注意すべきかも知れなかったが、猫に構わせておけばまた少女の胸や尻に抱き着いて問題を生じさせる心配がなさそうなので、放っておくか。


「本日は、教会の天令石にどのようなご用事で?」


 係らしき人が言った。


 嘘偽りで石が何がしかの反応を見せるなら、裁判やトラブルの解決などに使用されるのだろうか?

 だが、俺達が触れたところで何者とか正体とか、判明するのだろうか?


 殊、ちゅん助に関して言えばアクリムの件は事によるとまずい事になるかも…俺自身は何も無いだろうが、ちゅん助に触れさせるのは…まずいのではないか?

 そんな考えが頭の中に湧いたが、当のちゅん助はお構いなしに呑気に猫と戯れている。


「ねこやわらかいお~w」

「でもわしの方がはるかにやわらかい手触りでカワイイお~おまえはこの世で二番だお~w」


 などと白雪姫の魔女の様な事を言っている。


「この人たちが悪いコトしてないかと、天令を見て欲しいんだけど?」


 少女が言った。


 この人「たち」と言うからには、ちゅん助も含まれているのか。俺は良いけど、よくない予感がする。


 天令がどのようなものか分からないが、ペテン師とか詐欺師と出たり、石が濁ったらこの世界での裁判所や警察機構の様な場所に突き出されるのだろうか?それはまずい…


「ならば旅のお方、この石にお手を」


 係員が言った。


 俺は自分自身の結果より、ちゅん助の事が気になってドキドキしていた。


「早くしなさいよ!」


「ヘイヘイ!イズサン!ビビってるビビってる!」


 スパーン!

「アホか!俺はお前の!」


 人の気も知らないでちゅん助が囃したてるので、思わずはたいてしまった…


「なにかお?ねこに触りたいのかお?」

「いやだお!わしが先にみつけたお!」


「ちげーよ!だいたいそれ教会の猫じゃねーのか!」


「おい、この鈍間!早くしろって言ってるの!」


 第四話 

 その21 天令石

 終わり

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