第59話 第四話 その20 絶界孤闘

「ゆるせんお!ゆるせんお!あの女ゆるせんお!」


「許せんって…」

「お前が激しくやらかしたからこうなったの理解してる?」


「ゆるせんお!ゆるせんお!」

「あの乳の肌触り!質感!張り!ツヤ!しっとり感!」

「そして匂い!まさしく罪!むしゃぶりつきたいな!美少女!」


「お前、むしゃぶりついてたじゃん…」


「むーん、こんな敗北を喫するならもっと弄り倒しておけばよかったお!」


「お前ね!そんな事より!俺の恰好見てなんかいう事ないのか!」


「なんじゃイズサン?教会関係者みたいなカッコして?コスプレかお?」


 スパーン!

「アホか!お前があの子にどスケベ働いたせいで」

「この上なく逆上されて!」

「ありもしない飼い主責任押し付けられて身ぐるみ剥がされ!このザマだろうが!」


「イズサンがあの子を足止めしておかなかったから、逃げられたんやぞ!」

「あそこから世紀の再逆転劇が始まるとこやったのに!」

「使えん奴め!」


 スパーン!

「アホか!あの後、数時間気絶してたくせになにが再逆転だよ!」


「ふふふ、戦いとは常に二手三手先を読んで行うものだお!」

「ただ…わしほどの頭脳を以ってしても…四手目は読み切れんかったお、無念!」

「まさかあの女に、あれほどの戦力があろうとは…不覚!」


「頭脳と言うよりは煩悩だろうが!煩悩!」


 ちゅん助が二度も少女を激怒させたことで、俺達は今度こそ完全に文無しとなってしまった。

 俺に至っては再び身ぐるみ剥がされたせいで、服まで教会から借りる羽目になったのだった。

 さらに今も恥ずかしながら食事を恵んでいただいている真っ最中なのだ…


 完全に振出しに戻ってしまった。


「グソクにやられた怪我のお陰で、まだ完全には戦えない…という事は収入がピンチって事だぞ!」

「今日からどーすんだよ?お前の通信石も、あんだけ莫大な金額入ってたのに取られちまって」

「なんとも思わねーのか!」


「ぷぷwあれほどの美少女の身体を好き放題したのだお!wそれなりの対価は払わねば!」


「好き放題まではしてない件…」


「わが青春に一片の悔いなし!」


 どーん!


「ずいぶんと安くて高い青春だな、オイ!」


 アクリムでの稼ぎはこの世界の平均的な一年間の稼ぎの軽く30倍以上はあった。まさに荒稼ぎであったとは言え、それを全部ブザマに負けて取られてしまったのだ。

 命の値段といえば決して安くはないが、それを失って平気な顔してるちゅん助もちゅん助だ。


 ひょっとして、何かまた彼女と出会う算段でもあるのだろうか?


「しかし誤算やった…」

「あの女との対決はわしの圧勝ッ!で幕を閉じるはずだったのに!」


 どうやら無いようであった…


(アカン…)


 まあ、この世界に飛ばされた時の事を思えば、お互い命があると思うだけましか…命…?

 そういえば、ちゅん助はあの少女の凄まじいまでの攻撃をどうやって逃れたのだろうか?


「そういやちゅん助、彼女の攻撃で封じ込められた後、どうやって抜け出したんだよ!?」


「ああ、あれ?ただ歩いて抜けただけだお?」


「歩いてだと!?」

「そんな暇も隙も全く無かったぞ!」


「よくぞ聞いてくれましたお!あれこそ!」

「フン!我が奥義!絶界孤闘(ぜっかいことう)!」


「ぜっかいことう!!!???」


「我が動きは流水…じゃなかった…」

「我が動きは!」

「この世のあらゆる物理現象と時間軸と切り離されて行動することが出来るお!」

「すなわち!」

「森羅万象世界を絶ち!己がのみのターン!それが絶界孤闘だお!」

「この姿になるのと引き換えに我が体に宿りし神の力!」


「ちゅ、ちゅん助、お前どうやって…」


「イズサン!わしの奥義のネーミング!」

「ドチャクソかっこいいお!?今考えたんだお!」


「嘘こけ!お前いっつもそんな事ばっか考えてただろ!なんだよ絶象って!」


「ふふふ、いわゆるむそーてんせい的な?」


「知らんがな…」


「絶界孤闘ですって!?あんなのおとぎ話の世界だけの話じゃない!」


 不意に後ろで驚嘆の声がした。


 まさか!


 あの子だった


「え?」

「いや…まさかの…あんのかよ…」


 どうやらちゅん助の厨二病で必死こいて考えたネーミングが、この世界に既にあるらしい事にちゅん助のテンションが著しく下がっていた…


 本人的には会心のネーミングだったらしい…


 が、声の主を見ると即座にテンションが戻り、声の主に飛びついた。


「むほーーー!我が嫁!」

「やはりわしの事が忘れられず戻ってきたかお!」

「再び弄り倒してやるンゴw!」


 ちゅん助は少女の胸に飛び込むと、スリスリと顔を擦り付けた!


 次は間違いなく殺されるだろう…アーメン。


 しかし少女は俺の予想とは裏腹に、前日までの様に悲鳴を上げることなく、自らの胸に抱き着く不気味な生物を冷静につかみ持ち上げた。


 バシバシバシバシバシ…………!


 少女の高速往復ビンタがちゅん助の両の頬に十数発炸裂したのち、グロッキーになったその穢れた物体を俺の方にポイと投げて返した。


「うう、イズサン…わしは…わしはイジメられたお…」


「完全に自業自得だろうが…」


 少女はすっかりとこの失礼極まりない生き物の攻略法を見つけ、冷静に対処したのだった。


「あんたら、ほんとにいったい何者よ!?何者なのよ?」


 第四話 

 その20 絶界孤闘

 終わり

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