第53話 第四話 その14 死んでた!死んでない!当たる!当たらん!

「おお!」


 放たれた矢は矢筈からレーザー光線の様な極細炎を発し、一瞬で音速を超えたと分かるマッハコーンを後部に形成したかと思うと、音だけを残して目にも映らぬ勢いですっ飛んでいく!


 旗までは弓矢では絶対に届かない。


 いや現代の対戦車ライフル銃を持ち出しても怪しいのではないか?という距離があるのに、魔法陣が伝える映像では発射即着弾!とも思える程の一瞬の間に、はためく黄旗のど真ん中に突然真円が空く様子が映し出され、そして数秒後、その旗が衝撃波によってポールごと吹き飛ぶ映像が無音で映し出されていた。


 旗までの彼方の距離など、まるで無かったかのような着弾、感覚が狂うほどの神速の神業。


 最初の俺達を助けたあの支援攻撃と衝撃波は、こうやって行っていたんだと一目で分かる凄腕だった。


 俺は唖然として魔法陣に映る、ドローンの空爆映像の様な自分の居る場所とは全く違う場所の爆撃映像を見るかのような感覚に襲われて立ち尽くす他なかった。


 もはや一片の疑う余地なく彼女が命の恩人であることは明らかだった。



 もっとも疑っていたのはちゅん助だけだったが…それにしても実際にその腕前を目の当たりにすると凄まじい…何と言う凄腕!信じられない程の…


「あれほどの距離…信じられん…」

「目の当たりにしても、ますます…」

「当たるはずが…いや!そもそも届くはずが…」

「どうやって…?」


少女の凄腕と少女たちの圧倒的な能力をまざまざと見せつけられても元の世界の常識に支配されている俺は驚嘆の声を絞り出すのが精一杯だった。


 そんな俺の呻きにも似たつぶやきが少女の耳に入ったのか彼女が答えた。


「どうやって?とか聞かれても説明は難しいわ」

「アンタ、目の前にある大きな池に石を投げ入れろって言われたら失敗する?」


「え?目の前の大きな池に?そんなのどうやったって失敗するはずが…」


「そうでしょ、そういう事よ」


「?」

「!?」

「!」

「いやいやいや!だってそれとは!」


 俺は少女が言ってる内容が暫く理解できなかったが意味に気付くとなおさら慌ててしまう、現代の戦術兵器並みの射程距離、その距離の狙撃をこの少女の神業は目の前の池に石を投げ入れる事と、同じ容易な事だと言っているのだ!


「ちゅん助!狙撃の最大成功距離ってのは何kmぐらいなんだ!」


「ん~?たしか2kmちょっとだお?」


 2km!いやしかし!この距離は…そんなのとは比べ物にならない程あるぞ!?何より弾丸ですら撃ってから着弾までは何秒も掛かるはず!今のは撃って即着弾だった!


「あんな無造作に撃って当たるもんなのか!?」


「まさか!狙撃はもっと繊細なもんだお」


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「だったらアレは…」


「いいこと?この程度の距離、私らにとっては純度低い精霊石でも朝飯前なのよ!」

「朝飯前だっぽ!」

「そうだっぴゅ!」


「グソク程度の鈍間な蟲なら、どこに居たって、目を瞑ったって当たるわ!」

「前の村では、音より速く飛ぶ翼刃鳥を何匹も始末してきたの」

「目に映る対象なら、射線が通ればこの私が外すわけないの!」

「いーえ過去には水平線遥か向こうの海賊船も、放物線軌道で沈めたことだってあるわ!」


「おいイズサン!どうやらこの世界も丸いらしいお!」


「いま傾聴すべきはそこじゃねーだろ…」


 少女を見ると両手を腰に当てて、どうだ!と言わんばかりに胸を張っていた。


「いくらお馬鹿さんでも流石に分かったわよね?」


「わかったっぽ?」

「わかったぴゅ?」


「いや、本当に凄い…言葉がない、改めて正式にお礼を言わせてもらいたい」

「危ない所、助けて頂いてありがとうございました」


「アホのイズサンを助けてくれてありがとうだお」

「でもわしはアホじゃないお」


「約一匹いまだ理解してないアホが居るみたいね…」

「アンタもグソクの群れの中に落ちてたら死んでた!分かってるの!?」


「死なんお!」


「いーえ!死んでた!」


「死なんお!!」

「死んでた!!」


「死なんお!!!」

「死んでた!!!」


「死なんって言ったら死なんお!!!」

「死んでたって言ったら死んでたの!!!」


「まったく!強情な女だお!」


「アンタに言われたくないわ!」


「だがそこがいいお!」


「気持ち悪いこと言うな!」


 ちゅん助が少女の前に踊り出て煽り始めた。


「おい嘘つき!確かになかなかの凄腕だが嘘垂れ流すのは良くないお!」


「なかなか!?あと聞き捨てならないわ!誰が嘘つきですって!?」


「おまえさんだお!」


「いったい!いつ私が嘘ついたってのよ!」


「まずわしが死んでたってのが一点!」


「確実に死んでたわよ!」


「そして目に映る対象なら外さないなどと言う、特大の大嘘!」


「はあああああ?????今あんた何見てたの!?」


「その程度の腕前で必中を名乗るなどと片腹痛いわ!」


「アンタ…もう…取り消せないわよ?」


「ふふん、その程度の腕前ではわしと戦えば!」

「数分後には泣いて許しを請うようになるんだおw」


「ふざけんじゃないわよ!エロピヨの分際でこの私と戦うですって!?」


「いかにもたこにも!」


「自分で言ってる事分かってんの?あんたみたいなちび助、かすっただけでお陀仏よ!」


「ププだおw心配せんでも当たらんおw」


「当たるわよ!」


「当たらんお!」

「当たる!」


「当たらん!」

「当たるわ!!」


「当たらんお!!」

「当たるつったら当たるって言ってんの!!!!」


「当たらんて言ったら当たらんて言ってるのだおっぽぽぴゅっ~ぴゅー♪」


「あー!コイツまたボクたちを馬鹿にしたッポー!」

「バカにしたッピュね!ま~たバカにしたッピュー!」

 ポカポカポカ!


「あー痛いおw痛いおwやられるお~♪ぽぴゅ~♪ぴゅぽ~♪」


「ご主人サマくやしいっぴゅ~!」

「舐められてるっポ!〆るっポ!」


「ちゅん助!それ位にしておけよ!」

「そういう厨二設定いいから!」

「俺でも理解してないのに、ましてやこの世界の人に理解してもらえるとか大目に見てもらえるとか思うなよ!」

「君もこいつの冗談を真に受けないで…」


「イズサンはだまるお!」

「アンタは黙ってなさいよ!!!」


「ひえー!どうしてそうなる!」


 少女は酷く立腹したようだった。数々のちゅん助の働いた無礼の積み重ね、と言うよりは自分の腕前を茶化された事にはもう我慢ならんと言った感じで明らかに殺気立っていた。


 どう見てもヤバい、雰囲気がやばすぎる、ちゅん助!お前はこの空気が読めないのか!


「こ、こいつにはよく言って聞かせますので…」


「もう遅い!もう謝っても許さない!」


「ふふん、泣いて許しを請うのはおまえの方だお!」

「その強気声!いつまで保っていられるかなお?」

「数分後には、エロスギィwの声、絞り出されてなきゃいいがなお!」


「アンタ、死んだわよ!」

「気が長くて寛大なこの私をほんっっっきで完全に怒らせてしまったようね!」


(き、気が長い?…)


「のわりにはさっきから怒ってばっかではないかw!」


(まあ、そうだよな、お前が怒らせてる事差し引いても…)


「アンタが怒らせる事ばっかりするからだろ!最後通牒よ!」

「大人しく封印を解くなら顔の形が変わるぐらいで許したげる!」


「封印は解いておいたお、だが断る!」

「渡しはせんお!こういう争いに問答は無用だお!」

「強い方が正義だお!」

「貴様に義があるならば、見事このわしから通信石奪ってみせい!」


「言ったわね!もう逃がさない!いつやんの!?」


「ふふふ、もう始まっておるw」


「そんじゃ行くわよ!」


 第四話 

 その14 死んでた!死んでない!当たる!当たらん!

 終わり

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