第52話 第四話 その13 見せてあげるわよ!
「ともかく!偽アスカ!」
「貴様がイズサンを助けたと言うなら」
「あの攻撃がおまえ由来である事を!証明してみせい!」
「ニセ言うな!人聞きの悪い!」
「だいたい勝手にアスカ呼ばわりしてんのアンタでしょうが!」
「ピヨピヨ~!この声を聞いてもまだそんな事言うなんて、ゆるせんッピュウ~!」
「は?声ですと?伝言があるっぴゅうw一度しか言わないぴゅううwこの間抜けぴゅうううううw」
如何にも人を馬鹿にした様なぶっさいくな間抜け顔とふざけた調子で、ちゅん助があのピンチの時の声真似をした。
「あ~!このピヨピヨ!馬鹿にしたッピュ!」
「そんなぶさいくな顔してないっピュ!」
「まぬけけな言い方してないピュ!」
「い~や!そっくりだっどぴゅうw」
「鏡をみてるようだお?だっドピュw!」
「ますます!わざとゲヒンにしてるぴゅねー!!!!」
ポカポカポカ!
「わはははははw我が動きは流水だっぴゅうw」
「その程度の腕では、わしは捉えられんっぴゅうw」
(どう見ても全弾殴られてるのだが…)
「だまれっピュー!」
ポカポカポカ!
「わはははははw」
よほどからかい甲斐があるのか、ちゅん助が愉快そうに笑い声をあげる。
「ご主人サマ!アイツ懲らしめるっポ!」
「そ、そうね…にしても!」
「あれだけしてやって恩人を信じないどころか疑うなんて、失礼にも程があるわ!」
「お望み通り!見せてやるわよ!」
「おっw!その封印されし微美乳を、わしにさらけ出す気にでもなったかおっピュポ!」
「ちゃうわ!ドスケベ!」
「ひっつけるなっピュ!」
「くっつけるなっポ!」
「ほんっとに!腹立つわね!」
「いいこと!?アホども!あの防壁の末端の曲がり角の見張り小屋!その上に立ってる旗見える!?」
「どもって…」
「なによ!文句ある!?」
「いえ俺達アホです~(棒)」
「見えるか!?って聞いてんの!」
少女が指差した方向は、ガリンの高さ5m程の延々と続く防壁が延びていた。
綺麗に積まれた石垣の防壁であったが、その距離はとても長かった。
少女が言うにはこの防壁の末端、というか角に見張り小屋が建っており、その小屋の上には旗が靡いているというのだが…どんなに目を凝らしてみても…いや、なるほど先端は街の形の沿って防壁は角で曲がっているようにも見えなくは無かったが、旗どころか小屋の存在すら全く認識できない。
どう見ても肉眼で確認できる距離ではないのだが?
それもそのはず、その距離たるや数kmにも及ぶ長大な物なのだ。だいたい今日の様な天気の良い日では暖かい大気の揺らめきで映像そのものがぼやぼやして、とても視認できる距離とは思えないのだが…いやどう考えても無理だ。
「え~と…」
「見えんお!豪華なケツ以外なにも!」
「歩くたびにムニュチッチ!ムチュニッチ!と!」
「動くたびムニュムニュと音がしとるお!w」
グシャ!
壁の方など全く見ず、いつの間にか少女の後ろ側に回り込んでマント下から熱心に少女の尻を覗き上げていたちゅん助が潰れる音がした。
「コイツは言うまでもないけど、あんたも駄目駄目ね!」
「す、すいません…」
ドカッ!
少女は自分の足元でひしゃげている物体にはもはや気にも留めず、俺に蹴り返してから
「ウィンドミル、この間抜けにも見えるように出してあげて」
「まかせるっぴゅ!」
(うん!?まてよあの形!どっかで見覚えが?)
「これで見えるわよね?」
少女に促されるまま、俺はちゅん助をだき抱えたまま恐る恐る小円を覗いた。
「こ、これは!!!」
俺は小円の魔法陣に映し出された映像を見て、思わず息をのんだ。
そこに映し出されているのは、肉眼でしかも間近で見ていると勘違いするかのような見張り小屋とその上にはためく黄色い旗の超拡大映像だった。
旗の布の汚れどころか端の解れ、いや質感まで…人間で言ったら毛穴まで見えそう、そんな信じられない位の解像度だった。
俺も元の世界ではカメコ…いや写真マニアだったのだ!この魔法陣に映し出されてる映像がどれほど凄いのかは一目で解る。
現代科学の光学レンズで同じ景色を撮影したとしても、これほどの望遠!解像度、望遠性能だけでも信じられないのに大気の揺らぎの影響はどうやったって絶対に避けられないはずなのだ!
それをこの
多分現代科学で同じことをしようとすれば、軍事偵察衛星のカメラや電波望遠鏡、デジタル解析にAI補正、それ位の凄さではなかろうか…俺は圧倒されて言葉が出なかった。
「ねえねえイズサン!こいつとわしのミコルの3000㎜どっちが凄い?」
この映像を前にして、ちゅん助がまた間抜けな質問をする…
「アホか!お前の玩具とは比べ物にならんわ!水鉄砲とICBMくらい違う!」
「は?3000やぞ!わしのは3000!」
「お前、そのおもちゃサーキットに持ち込んで」
「10mそこそこ離れたとこに居るだけのレースクイーンのパンツが撮れねえって泣き喚いてただろ…」
「それに、この対物レンズと思われる魔法陣のレンズの形…」
「思い出した球面収差ゼロレンズの理論!」
なんてことだ…収差ゼロのレンズ、たしかWasserman-Wolf問題、それを解消する手法に一つの解が出たのはたしかまだ去年の話だったはず、そしてそれは一般人では理解するどころか覚える事
いいや!
読む事すらできない難解複雑な数式で構成され、それ以上に複雑な形状の波打つレンズは現代科学を以ってしても製造するのは至難の業で研究途中だったはずだ…それをこんないとも簡単に実用レベルで再現するとは…
「凄い、凄すぎる…圧倒的…圧倒的!」
「ふふん、ワタシは凄いっぴゅ?凄いっぴゅ?」
俺の耳元で
「ああ、とんでもない凄さだ、脱帽だ、言葉がない…」
「わしのミコルも凄いお!3000mmだお!」
「お前な…そういうレベルじゃないんだわ!」
「ふ~む?このお嬢ちゃんのおムネは800mmも無さそうなのにかお?」
「は!?なんか言った!?」
ちゅん助…お前ズーム性能にしか興味がない癖に、この映像の凄さが分からんとは‥‥
「で、これはどれくらい凄いんだお?何mmだお?」
「何mmとか言うレベルじゃない!」
「35mm換算で何mmだお!?」
「ああ、しつこいな!そんなに35mm換算で知りたいなら教えてやるよ!この子のレンズの35㎜換算は!53万です!」
「な!?なんやて~!圧倒的じゃないか!敵軍は!」
「しかもmmじゃねえ!kmだぞ!」
「km!?」
「な、なんという…これをサーキットに持ち込めば!」
「尻肉どころか毛穴の汚れまで〇撮出来るというかお…」
「お前…そういう変態発想だけは凄まじいな…」
「あんたらバカぁ?」
「この程度でなに腰抜かしてんのよあんた?」
またアスカあ!と言ってちゅん助が少女に飛びかからないよう、俺と少女、両者が注意してちゅん助の動向を警戒した。
「援護射撃してあげた時の距離はこれとは比べものにならない位あったわ」
「なにぃい!?」
「なによ?今は曇って見え辛いけど、ガリン平原の後ろに聳えるあの山の中腹から撃ったのよ、最初」
「なんだってー!?」
少女が指す方向のその山は、距離を計ろうにも目測では到底、感覚がつかめず離れている、というよりもはや背景、いや背景に溶け込んでいるように見える程の途方もない距離にあった。
だが同時に疑問も生まれた。
少女は肩に竪琴の様な楽器を身に付けているだけで、ライフルとかミサイルとかを持っている様子は無かった。
まさかドラ〇ンボールみたいに、意味不明なエネルギー弾を放てるのだろうか…
「あんな距離どうやって…」
「ピチローのれーざーびーむなら届くかお?」
「あほ!届くか!」
「ふん!アホどもにはやって見せないと分かんないわよね」
「といってもどこぞのアホ達を助けるために純度の高い精霊石使っちゃったから、屑みたいなのしか残ってないけど!」
少女は俺の方を睨みながら言った。
「すみません…」
「アホ達じゃないお!助けたのはこのアホのイズサンだけだお!」
「お前黙ってろ…」
キッ!と睨んだ少女の視線に、慌てて俺が黙らせる。
「まあいいわ、屑みたいなのって言っても手持ちが少ない今、この石でも貴重だけど出血大サービスよ!」
「ファイアン!あれ位の距離、これでも行けるわよね?」
「余裕だっぽ!でも使っちゃうっぽ?」
「言ってみて、やって見せつけ黙らせて、殴ってやらなきゃアホは学ばじ!」
「そんじゃま、行くわよ!ウィンディ!」
「ぴゅぴゅぴゅのピュー♪」
少女が肩の竪琴を取り外すと、
「あの見張り小屋は、午前中の見張り要員は青の旗、午後は黄色の旗を上げることになってんの」
「未だに黄色が上がってるって事は、午前の要員がサボって取り換えて無いってこと!教えてあげないとね」
そう言うと少女は素早い動作で腰の筒から矢を取り出した。
(矢!?でもあれは竪琴では!?)
矢をつがえ少女が引くと竪琴の様に見えた装具が弓型に展開した!
「!」
「あの程度の距離なら三分引きで充分ね!」
少女は矢を肩口まで引いてアーチェリーの様な発射体勢を取ったかと思うと見張り小屋目掛け、さして狙いも付けず即放った!
「
「発火!」
「ッポ!」
キン!
シュパア!
第四話
その13 見せてあげるわよ!
終わり
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