第51話 第四話 その12 ファイアストンとウィンドミル
俺は大急ぎで少女の後を追うが少女の脚はとんでもなく速く、全速力で追っても追ってもどんどんと引き離されるばかりであった。
少女が時折後ろを窺うので、あの速さで走っているというのに相当手を抜いて走っている様だった。
若いはずの俺の肉体だが、グソクにやられた傷のせいもあって全くついていけない。いや怪我してなくても少女が本気ならあっという間に見えなくなる事だろう。
1秒だって着いていけない!
「ゼイゼイ、いったい、どこまで行くつもりなんだ?ゼイゼイ!ハアハア!」
こちらをチラチラと窺う少女の顔は非常に険しく、遠くにあってもこの間抜け!なにノロノロやってんのよ!と言ってるであろう事は容易に想像が出来た。
少女は街の壁の外に出て暫くして、ようやく走るのを止めたのだった。
「おーい!はあはあ、いったい…はあはあ!どこまで…」
「遅い!」
少女は俺の質問に答えず怒鳴った。
「この間抜け!なにノロノロやってんのよ!」
「ですよね~」
想像した通り…
「こりゃあ!イズサン!なんで慌てて走っとるんだお!」
「もう少しゆっくりこんか!使えん奴め!」
「おっおっおっw」
ちゅん助の野郎!なんて奴だ!人が必死こいて走ってるのにあの野郎ときたら少女の胸の感触を楽しむためにわざと遅れて来いとほざいてるのだ。
後で百ぺん殴る!
「こ、この!」
ブン!
ドコッ!
「ぐえあ!」
ちゅん助の企てに気付いた少女は胸に抱きかかえていたちゅん助を思い切り地面に叩きつけるとポコンポコンと数回地面に跳ねたちゅん助が俺の手に収まった。
「ふぁふぁーん!(←泣いている音)イズサン!」
「わしはまたいじめられたお~」
「嘘こけ!お前ずいぶん悦んでたじゃねーか!」
「あんたら!よくもここまで!命の恩人に対して虚仮にしてくれたわね!」
「いや…その俺は…」
「そうやぞ!イズサン!謝って!早く謝って!」
「ちゅん助君!どの口が言うのかな?」
「痛いほ!痛いほ!千切れるほ!」
俺はちゅん助の両頬をつねって引き伸ばした。
「まったく!」
ポイ!
ちゅん助を投げ捨てると目を吊り上げてこちらを睨んでいる少女に向き直って言った。
「いや、ほんとにこの度は連れが重ね重ね済まない…」
「まったくよ!いったいどんな躾をすればこんな!」
「いや、ほんと信じて欲しい…こいつは使い魔でもなんでもなくて」
「また言い訳するのね!男らしくない!」
この状況ではもはや何を言っても無駄か…
「この度はうちのちゅん助が無礼を働きまして誠に申し訳ありませんでしたあ!」
「最初からそう言えばいいの!この間抜け!」
「そうやぞイズサン!この間抜け!」
「アンタが言うな!」
「お前が言うな!」
ドカッ
「ひえ~!」
いつのまにか少女側の足元にいた、ちゅん助を蹴り飛ばすと再び少女に向き直って言った。
「済まない」
「ちゅん助の奴は本当に済まないけど一旦置いといてくれないか?」
「俺自身としても君にもう一度会いたいと思っていたんだ!」
「なによ!」
「今度はご主人様が直々にナンパでもしようっての!?」
「え!?…あ!…ち、違うよ!ぜんぜんそんなつもりでは…」
「あら?」
「それはそれでムカつくわね、まあいいわ」
「だったらなに!?」
見た目通り少女は自信家の様だったが、こちらの用事はそうではない。
「い、いや…危ない所を助けてもらった御礼がちゃんと言えてなくてずっと気になっていた」
そうなのだ、俺はこの少女に助けてもらったというのに、あまりの出来事の連続で流されてしまったりアホのちゅん助のせいでバタついて、こいつの無礼ぶりばかりが際立って、全く礼を欠いていたのだ。
それがずっと気になっていた、二度と顔を見せるな!そう言われても会えたら絶対に御礼を言わねばと思っていたのだった。
「へえ?腕は未熟でお漏らしする癖に、あの馬鹿と違って礼節は一応わきまえてるのかしら?」
「なに?イズサンもらしたのかおw?」
「うう…」
「ちゅん助君、黙ろうか…」
それを言われると辛い…というか恥ずかしい…俺は俯くほかなかった。
「まてお!イズサン!罠かもしれんお!」
「お前…なに言ってるんだよ…」
蹴飛ばされたはずのちゅん助がいつの間にか足元に居て、また場が荒れそうなことを言う。俺は半ば呆れるように言った。
「はあああああああ!!!!????」
「ご主人様が改心してお詫びとお礼を言おうとしてるから」
「そろそろ収めてやろうかと思ってたのに、ま~たそんなこと言う!?」
「ちゅん助君、そろそろホントに黙っててくれないかな…」
「まつお!まてだお!」
「そもそもこの女!」
「わしらを助けた!助けた!」
「言うだけで何の証拠もないではないか!」
「あん~たねえ~!!!!!!!!!!!!!」
短気な少女の顔がまたも紅潮し始めた。
(ちゅ、ちゅんすけええええ!)
「聞き捨てならないっピュ!」
「この声!忘れたとは言わせないっピュ!」
少女の背中のあたりから小さな
「このワタシの声!忘れたとは言わせないっピュ!」
「ピュ?た、確かに、君はあの時の…」
確かにその声は、グソクに囲まれて絶体絶命のピンチの時にどこからともなく聞こえて来た声だった。
「ご主人サマに何回も助けてもらったくせに、このピヨピヨは失礼だっピュ!」
「そうだっポ!お前らの救出にはボクらも力を貸したっポ!ピヨピヨは失礼だっポ!」
ポコポコポコ!
ポカポカポカ!
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「あいたた~!なにをするだあーだお!」
小さな炎風たちはちゅん助の周りを飛び回ると、ポカポカと殴りつけている様だった。
「やめてクレメンスw!叩かないでクレメンスw!」
「駄目だっポ!失礼な奴はこうだっポ!ちゃんとご主人サマに、お礼とお詫びを言ってクレメンっポ!」
「そうだっピュ!言うまでワタシたちはお前を叩くのを止めないっピュ!さあ言ってクレメンっピュ!」
ポカポカポカ!
「ひえーやめてくれだお!やめてクレメンスw!」
「やめてクレナイメンっピュ!」
「お前が泣くまで殴るのを止めないっポ!やめてクレナイメンっポ!」
「無駄無駄無駄あw!ひえー!クレメンスになってないっぽおw!」
「真似するなっポ!」
「真似してないんだお!っぴゅw」
「ピヨピヨ!真似するなッピュ!」
「は?真似してないんだお!これはわしのオリジナルなんだお!っぽぴゅ!w」
「くっつけるなっポ!」
「ひっつけるなっピュ!」
止めろ止めろ!と大騒ぎしてる割には、意外にノリの良い炎と風にちゅん助は大喜びしている様だった…
その様子を見て少女の顔は引きつっていた。
「ファイアストン!ウィンドミル!戻って!」
「は、ハイっポ!」
「ピュ?ピュ~!」
ファイアストンとウィンドミルと呼ばれた小炎と旋風つむじかぜは、一喝されると少女の両肩に、すごすごといった感じで慌てて戻っていった。
「あ…!」
玩具を取り上げられた子供の様に、ちゅん助がつまらなそうな顔で声を上げた。
(やはり楽しんでやがったな、コイツ…)
「ともかく!偽アスカ!」
「貴様がイズサンを助けたと言うなら」
「あの攻撃がおまえ由来である事!証明してみせい!」
第四話
その12 ファイアストンとウィンドミル
終わり
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