第5話 プロローグ その5 巨大青ムカデ
俺達に追いついた青の一群は最初集団で追って来ていたが、俺が足を止め交戦状態に入る事を覚悟した!と見て一列に連結合体した群形となった。その姿は巨大な蛇、いいや蟲だけに巨大な青いムカデ状となってその体長を活かし、俺達の周囲を閉じ込めるかの様にもの凄いスピードで旋回し始める。
「連なってただけなのに!回り始めたら合体してムカデになっとるお!こんなんありかお!」
「速い!?」
「な、なんちゅう!」
合体する、その事実だけでも厄介なのに真にヤバいのは青ムカデの、目で追うのがやっとの驚愕の速さであった。このスピードから逃げ切るのは、例え脚に傷を負っていなくとも絶対に不可能だった。
「キュイー!」
右後方で大ムカデが叫んだかと思うともの凄い勢いで一直線に俺に襲いかかって来るのがギリギリ見えた!
「うわっ!」
奇跡的に反応しなんとか巨大青ムカデの初撃は躱すことに成功!
「キュイー!」
「キュイー!」
「キュイー!」
初撃をなんとか躱した俺であったが反撃の手段が無いと見て青ムカデはさらに加速し、右から左から後ろからあらゆる死角を突いて連続攻撃を仕掛けて来る!
「クッ!」
防戦一方、いや、防戦ならまだいい!全神経を集中させ攻撃を躱す!今できるのは本当にそれだけ!
(速すぎる!剣を合わせられない!)
「イズサン!カウンターだお!カウンターを合わせるお!一列になってんだから上手く合わせればズバアアアア!!って真っ二つに!一発で始末できるお!」
「んなこと出来ればとっくにやってるよ!」
そんなの!言うは易し西川きよし!だ。ムカデの攻撃を必死に躱しながら俺は叫ぶ。ちゅん助の言う様にできれば世話は無い!それをやるには死角から次々猛スピードで突進してくる青ムカデの真正面へ向き直り、且つ重心のある斬撃を放たなければならないのだ!敵の攻撃に対して何とか向き直って躱すのが精一杯の今、攻撃のための重心を溜める暇など一切ない!出来るはずがない!
「キュイー!キュイー!キュイイイイー!」
俺の体捌きが鈍り始めたのを見て巨大青ムカデはさらに攻撃速度を加速し執拗な連続攻撃を加え始めた!
ジュシャアアー!
「アウッ!」
一瞬…間に合わなかった!遂にムカデの攻撃が後方から左肩を捕らえ強力な一撃で俺の身体から鮮血が飛び散った!
「わあー!イズサーン!」
泣き声に近いちゅん助の悲鳴が響き渡った!
「くう…!」
俺は左肩を押さえながら、堪らず片膝が地に着いた格好となった。
シャア!シャアア!シャアアアアアア!
俺の脚が完全に動きを止めたのを見て巨大青ムカデは挑発するように眼前で∞の字を描くような軌道で素早く走り回りとどめの機会を窺がっていた!走るだけで風切り音が唸っている!完全に決めに来る!そんな様子だ!
(ダメだ!速過ぎて、とても捉えられない!ましてやカウンターを合わせるなんて不可能だ!どうする!)
(まともに喰らったら一発でアウトだぞ、どうする!)
∞の字走行を解いた巨大ムカデは最後の一撃を俺に見舞うべく再び俺を中心に円を描く様に旋回走行を始めていた。手傷を負った俺の身体ではそのスピードになおさらついて行く事が出来ず、目で追うのも難しくなっていた…
「あかーん!此奴さらに加速しとるお!そのままバターになってクレメンス!」
「どっかのトラかよ!」
(もうまともにやっても絶対当たらん!一か八か!)
俺は地に着いた片膝を再び持ち上げ、脚に力を込めるが傷を負った足に力が入らない。逆に足腰のバランスを失い、前のめりに倒れそうになった!
「キュイイイイイイイイイイイイ!」
この機を逃さず!そう言わんばかりに殊更に甲高い鳴き声を発しながら、巨大ムカデが真後ろから真っ直ぐに襲い!飛び掛かった!
「喰らえよおおおおおおおおオオオー!」
乾坤一擲!
バランスを崩したように見せかけたフェイク!
この状態なら!恐らく奴は最も安全な真後ろからの攻撃を選択するはず!そう読んで俺はムカデの叫び声と同時に素早く振り返り、思い切り!短剣の上段斬りを放ったのだった!
ドンピシャ!
(馬鹿め!引っ掛かった!この体勢になれば必ず無防備な背中を狙って攻撃を仕掛けてくるはず!もらった!)
「うらああああアアアアアアアーーー!!!」
短剣一閃!
青ムカデ目掛けて全力のカウンターで繰り出された片手上段斬りが青ムカデの正中線に炸裂!一列に並んだ数十匹以上ものグソクを一撃の下に真っ二つに引き裂く!!!!!
はずだった!
ヒュン!
「外したァ!?」
真っ二つに切り裂いたつもりの青ムカデはその残像だけを残し、短剣は勢いよく、しかし虚しく空だけを斬った…
シュバアーーーー!そんな小気味の良い斬撃音が聞こえるはずがヒュンという風切り音だけが小さく鳴り響く…
全体重をかけ逆転の一撃を放った俺は完全に空を喰らい、今度こそ本当にバランスを崩してつんのめったのだった!
俺の視界、既にそこには青ムカデは存在しなかった…
「キイーキーッ!」
間抜けめ!死ね!言葉にすればそんな風だろうか?巨大ムカデが背後で吼えた!
(ま、まずい!今度こそ完全に後ろ!しかもバランスをッ!)
フェイクにかかったのは俺の方だったのだ!
咄嗟に反転するがその体勢に剣撃を繰り出す重心など一切残されてはいない!
眼前に大口を開けた巨大ムカデの牙が迫る!
(だめだ!やられる!)
今度こそは完全に死を覚悟せねばなるまい…
(グソクの野郎、口…こんなに大きかったんだな…)
死の間際の感想がそれかよ、我ながら思った。しかし人間死ぬ時なんて案外こんなもんかもしれないな…そうも思った…
「ふせろッピュッ!!!!」
「!?」
プロローグ
その5 巨大青ムカデ
終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます