第4話 プロローグ その4 謎の真円
「キキッキー!」
俺が尻もちをついたまま無様にも垂れ流したせいで、その臭いに色めきづいたのか?戦闘意欲を失くしたのを見てか?周りのグソク達は遂にしてやったりの狂喜とも思える鳴き声を上げた!と、同時に三匹のグソクが座したるままのどうしようも出来ない俺の上半身目掛けて飛びかかって来た!
「イズサーン!」
ちゅん助の叫び声が聞こえてはいたがもはやどうする事も出来ない。命の危機が迫る時は周りの風景がスローモーションの様に見える。ちゅん助談のイってしまいそうになる現象と併せて実感した俺は事の終わりを感じ取り思わず目を閉じた。
(終わった…)
ドタ!
ドサドサドサッ!
仰向けに倒れた俺にグソク達が1匹は胸に、残りの2匹が腹に取り付いた。これで肺を破られ内臓を引きずり出されて苦しみながら死ぬのだろうか?
痛くなければいいのだが…すぐに死ねれば良いのだが…うっすらとそんな事を考えていた。幸いな事に…いや不思議な事に痛みは無かった。
(俺はもう死んでるんだろうか?)
(良かった、思ったよりずっと楽に死ねるんだな)
そんな事を考えながら意識が途切れるのを待った。
(?)
だがおかしい!
確かに胸や腹に痛みは感じなかったが喰い付かれた両脚の痛みは今現在も確かにある!あのグソクの歯で胸や腹に喰い付かれたら痛くない訳がないのだ…
なのに胸と腹にズシリとした重みだけがある?間違いなくグソクは俺に取り付いているはずだ…しかし胸の重みにも腹の重みにもゴソゴソとした気持ちの悪い動きが無ければ、あのキーキーと言う不気味な鳴き声も聞こえない…
(?)
「うわっ!」
恐る恐る目を開けた俺の眼前には1匹グソクの顔があった。近くで見るとより不気味でグロテスクで凶悪な顔をしていた…
バシッ!バシバシ!
慌てて眼前のグソクと腹に乗ったグソクを払いのけた。あれほど執拗に喰らいついてきたグソクが嘘のように転がり落ちる。
「イズサーン!大丈夫かお!」
脇では心配そうにちゅん助が飛び跳ねている。
「こ、これは?」
払いのけたグソクは全く動かず活動を停止していた。腹に生えた無数の脚が全て閉じている。グソクが死んでいる証だった。
恐る恐る拾い上げ、眺めると殻の両側面に直径2cm程の穴が一直線に貫通した状態で空いていた。その穴は穴というレベルでなくまるで真円のステンレスパイプでも貫通させたかのように滑らかな、そして小さなひび割れ一つ無い、見事な断面を形成していた。
突然グソクが活動を停止したのは恐らく…中枢神経があるであろうこの位置に何らかの力が働いて穴が空けられた!からだろうか?
「な…んだこれ?」
穴内部の断面からグソクの体液が滲み出た事により何か物理的な力でこの穴が貫通させられたと推測できるが…
「イズサン!お休みの所悪いが、状況はちっとも好転してないお!」
脇でまたちゅん助がぴょこぴょこ飛び跳ねた。
確かに周囲のグソクの大群が消えたわけではないのだ。しかし見回すと包囲網を着実に狭めていたはずのグソクの群れが幸運な事に一定の距離で詰めあぐねているように見えた。
「キッキッキ…」
「キッキッキ…」
たった三匹ではあったが原因不明な不思議な現象によって穴を開けられた仲間の姿を見て警戒しているのか?
(警戒している?)
今まで何百万だか何千万だかは知らないが、それだけの数を駆除されてもこいつらは全く統率の無い状態で個々にランダムに動いていたのに、追撃時の統制が取れた状態や、ここに来てのこの警戒状態!こいつらにも何らかの知能があるのだろうか?バラバラに動いていたのも冒険者を次第に油断させ単独行動でも危険と思わせず孤立へと導く、やはり罠だったのだろう。
「幸か不幸か警戒してくれてるのかお!」
ちゅん助も同じ感想を口にした。
「おかげでひとまず助かった!」
あのまま次々と飛び掛かってこられていたら俺もちゅん助も今頃姿形どころか跡形すら無くなっていただろう。
三匹のグソクが飛び掛かってから数秒後、いや数十秒後だっただろうか?
ゴオオオオオ!
「!!!???」
ゴオッ!ともシュバー!ともつかない劈く様な轟音を伴って、無数のグソクの群れを蹴散らしながらもの凄い速さで土煙がこちらに向かってくるのが見えた!
「なんじゃあ!?アレ!」
「あれヤバくないか?」
「わしら完全にアレの軸線上におるお!」
「うわあ!」
「ひょえー!」
シュバー!
シュバー!
シュババアー
ほとんど同時に一筋の…いや、三つだったと思う!土煙が寸での所を!俺達の目の前を!横切った。
あとコンマ一秒でも身を捩って横転するのが遅れていたらグソク達と同じように蹴散らされ舞い上げられてしまっていたかもしれない!
「ぐああ!耳が痛いお!」
「ぐッ!」
そんな内容をちゅん助が叫んだように思えた。お前の体に耳があるのか?そう突っ込みたいところだったが俺も耳が強烈に痛んでいた。
「く…なんだ?衝撃波?」
「ふぁーふぁーん!(←泣いている音)耳が!耳が痛いんだおー!」
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あるのかないのか分からない三半規管を…これまた泣いてるように思えないコミカルな泣き声を上げて、耳をやられたらしいちゅん助が地面に落っこちてフラフラと彷徨っているのを見て慌てて拾い上げた。
「うぐぐ!イズサン!あれ…」
僥倖!
胸に抱えられたちゅん助が指差した方向を見ると衝撃波らしき土煙が通り過ぎて行った後はグソクが蹴散らされ、狭いながらも数百mはあろうか?という道が出来ていた!先程まで統制の取れていたグソクの群れは突然訪れた衝撃波によって慌てふためいたようにバタバタと不規則な動きを繰り返し俺達へのマークがかなり剥がれている!
気が付けば後方で発生していた巨大な影のプレッシャーもいつの間にか消えている?
「行くしかない!」
「あの凄い土煙はなにかお!なんか飛んでったかお!」
「分からない!何も見えなかった!衝撃波みたいなものかもしれない!」
「衝撃波って、そにっくぶーむとかいう奴かお!?」
「分からないよ!速過ぎて…それ以前に土埃が酷くてそれどころじゃなかった!」
「ただ一つ言えるのは」
「行くしかない!」
「行くしかないお!」
何者かによって造られた生存への道は、僅かでも希望の光がッ!差しているようにも見えた!
この道を行けば果たしてなんとかなるだろうか!?だが考える暇も選択肢も無いのだ!行くしかないのだ!
脚は激しく痛み、濡れた股間はとても気持ち悪かった、気持ち悪かったが、気持ち悪いという事は!
「まだ生きてる!」
「おうだお!この道を行けばどうなるものか!行けばわかるさー!だお!!!」
俺は奮い立たせるかのように叫ぶと脚を引きずりながらなんとか希望の道を進み始めた!だが疲労と痛みのせいで足取りは重く、鈍く、困難の極みであった。必死で走るが歩くスピードが出ているかどうか…
スルスルスル!
後方に青い影が走った!逃げの一手しか打たなかった青グソクの一団が集団をなして、今度は追撃隊となって迫ってきているのだ。前方に一瞬開けた道も混乱が治まった個体から行く手を塞ぐ様に徐々に動き出している。
「追いつかれるお!」
頭上で後方監視していたちゅん助が叫んだ!
追撃隊はただでさえ脚の速い青なのだ!傷を負ってなくても引き離せるかどうか?いや引きずった脚では灰でも追いつかれる。案の定あっという間に距離を詰められ交戦状態にならざるを得なかった!
「あっち行けだお!」
ちゅん助が大声で威嚇してなんとか追い払おうとするが蟲達はここが勝負どころとばかりに再び襲い掛かって来る!
幾重もの巧妙な罠によって俺達をおびき出して作ったこの状況なのだ。何者かの妨害を受けたところで一旦は混乱状態に入ったが、引き下がる気配はない。蟲のくせに!執念の様な意思が感じられた。
せっかく開けた希望への道もどんどんとその幅を狭めて行き、途絶える状態となりつつあった…
「せっかく開けたと思ったのに」
ズシャ!ズシュ!
赤を斬っていない短剣は斬れ味を失っておらず最後の抵抗の命綱だったが、青は速い!2匹を斬るのがやっとで攻撃のために足を止めた所で青の一群と対決する状況となった。
「あかんお!とても逃げ切れんお!」
「クソ!」
激しい疲労と手負い、灰相手でも厳しいこの状況で、追手は動きの速い青!
一旦は光が差したかと思われたが、再び俺達はさらに厳しい状況に追い込まれたのだった。
プロローグ
その4 謎の真円
終わり
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