第3話 プロローグ その3 恐怖のあまり
「くそう!」
ズシュッ!
俺は慌ててしゃがみ込み短剣を足首のグソクへと突き立て取り払った!
「キーキキキ!キーキキキ!」
その様子を見て周りのグソクが一斉に嘲笑うかの様な不気味な鳴き声を発した。
「遂に捕らえたぞ、お前はもう終わりだなあ!」
そう言ってるかのように感じ身が震えるのが分かる!グソクの歯は強いが短く傷は深くは無かったがその代償は大きかった。
痛みと初めてダメージらしきダメージを負ったショックと目前に迫った恐怖で身体が思うようには動かない。何よりもグソクに突き立てられた歯の痛みが浅い事が恐怖だった。
動きを止められ地面に倒れ込み無数のグソクが己の身体のあちこちに噛みついた時、自分はすぐ死ねるのだろうか?生きながらにして手足を齧られる痛みというのはどんなものなのだろう?正気でいられるのだろうか?気を失ってしまえるのだろうか?血はどれほど出るのだろう?骨は残るのだろうか?内臓は抉られる?脳みそは?目玉は?俺はどんな味がする?
「ああ…」
ドサッ
想像した恐怖のあまりのおぞましさに俺は重心を失くし尻もちをついた。
「あかんて!立てって!立てって!立……」
ちゅん助が頭上で何か騒いでいるがもはや何を言ってるのか聞き取れない。
ガシュ!ガシュッ!
「痛てえッ!」
さらに2匹、今度は左脚にグソクが取りつく!
「離れろ!離れろ!」
グサッ!グサ!
必死の思いで短剣を突き立てる。2匹を引き剥がす尋常ではない痛み。今度は太股をやられた!傷口から少なくない血が流れ出す!
「来るな!来るなあ~!」
狂ったように短剣を振り回すがグソクの群れはその輪を徐々に狭めて来た。
「キー!」
「グゥッ!」
そしてさらに1匹が右足に!ここに来て俺の体力と気力は大きな消耗を迎え、叫ぶ事も取り払う事もままならなかった。
「こいつめ!こいつめ!」
慌ててちゅん助が頭上から飛び降り取り付いたグソクをポカポカと殴りつけるがぬいぐるみの様なコミカルなその体から繰り出される拳?羽?手?では木魚を叩くような音すら鳴らす事も出来ず、なんの意味もなさなかった。まさになす術が無い。
今あるのは死へのはっきりとした痛み、幸か不幸かその痛みのせいで失う事も出来ない正気、それだけだった。
(死…?)
(こんなバカな事で…これで死ぬ……のか?怖い…)
もっと注意深く進めていれば確実に避けられる死だった。何故俺はあんなに強気になったのだろう?
俺はこんな迂闊な性格ではなかったはずだ、どうしてこうなった?後悔の念ばかりが溢れて来る。
「りせっと、リセットボタ…ン…」
呆然とした意識の中で俺の手が何かを探すように宙を彷徨う。
「立て!立てって!ゲームじゃないんだ!ボタンなんてねえぞ!!!!」
錯乱した俺は無意識のうちにゲーム機のリセットボタンを探していたのだ。だが世界は違えどもこれは現実なのだ…そんな都合の良いものはあるはずもなく、その事実を伝えるべく必死でちゅん助が叫んでいた…
ジョオオオオ…
「ああ…」
極限にまで高まりこの身に収まらなくなった恐怖が液体へと形を変え俺の股間から放出された…
「ううッ!?」
死、間際の錯乱状態での排泄欲が満たされた事でこの身の終わりを本能が感じ取ったのか…よりにもよって、こんな時に繁殖欲求が股間を襲い快感液を恐怖汁に引き続いて放出させようとしていた…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「わしが香港国際空港で護身用に持ってた防犯スプレー見つかって言葉も分からないまま適当に答えていたら」
「ハイジャック犯と間違えられて!お前は刑務所行きだ!って香港空港警察に言われた時」
「今後自分の身がどうなるか分からんあまりの恐怖で!」
「あ、ま、り、の、恐、怖、でっ!」
「あまりの恐怖で!」
「わしは…」
「わしは!」
「わしはイきそうだったんだおwwwww!」
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死の恐怖の中、薄れゆく意識の中でかつてちゅん助が言っていた下品な話をぼーっと思い出していた。
あの時は
「嘘つけ!変態!そんなことあるわけねーだろw!ド変態!」
などと罵っていたが…
(なんだよ、あれ、ホントだったんだ…)
そんな下品な現象が真実だった!などと実感したくは無かったが、自らの身に起きた今、あれは本当の話だった…とまざまざと思い知らされた。
もっともあの時、そんな話を信じられなかったのはちゅん助が
「いやー人生であれほどのピンチは青葉区で初出撃してハッチを開けたら」
「目の前に!」
「れんぽーの白い奴がおった時以来やったおwww」
な~んてふざけて言っていたので、てっきりネタだと思っていたからだ。
プロローグ
その3 恐怖のあまり
終わり
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