052 指示の意図

「それは、EX級アーティファクトを集めていることに関連しての話ですか?」

「うん。そうなる。まあ、薄々気づいてるだろうけど、私がそうしているのは特定の断片フラグメントを探しているからだ。厳密には、そこから得られる能力だけどね」


 その部分に関してはメタが言うように、おおよそ予想できた話だ。

 なので、マグは首を縦に振って言葉の続きを待った。


「世界の滅亡を防ぐために、時空間転移システムのコアユニットを探していることは君も知っての通り。けれど、当時の技術が失われた今、暴走をとめる術もない」

「え? …………いや、そうか」


 改めて考えてみると当たり前のこと。

 とは言え、そこは既に解決済みだとばかり思っていた。

 まさか目途が立っていなかったとは。


 マグからすると、遥かに技術が進んだ世界に思えるこの時代。

 だが、かつての超文明は滅び、多くはロストテクノロジーと化している。

 マグはその事実を改めて突きつけられた気がした。


「情けない話ですね」

「うん。全くだね」


 冷たく指摘したアテラに、メタは苦笑気味に同意を示す。


「けれど、だからって指を咥えて世界が滅ぶのを見ている訳にはいかない。そこで街の管理者は、各々が各々の方法で解決策を立てようとしているんだ」


 それから彼女は、恥じ入るように少し視線を逸らしながら続けた。

 統治者として当然で誇れることではない話を、敢えて口にしているからだろう。


「私の場合は、さっき言ったように断片フラグメントの力で何とかしようと考えてる。この街には探索者が多いし、迷宮遺跡の情報も多分世界一豊富だからね」


 出土品PTデバイスが集まり易く、有用な断片フラグメントが得られる可能性が高いから、という訳か。


「他の管理者はどういった方法を取ろうとしているんですか?」

「そうだね。地道に時空間転移技術を一から再構築しようとしていたり、単純に破壊してしまおうって子もいたりするかな」


 超文明の絶頂期の遺物だ。

 一から学び直すのも、ただ破壊するのも困難極まりないに違いない。


「どの手段を選ぶかは、コアユニットを見つけた段階で確立できていたものの中から協議をした上で、って感じだね。……ここまでは理解してくれたかな?」

「ええ、まあ」


 確認に頷いたマグに、メタは「じゃあ、本題」と前置いてから改めて口を開く。


「私が知る限り、有効そうな断片フラグメントは今のところ二つ。受容の判断軸アクシス・理解の断片フラグメント。それか革新の判断軸アクシス・改良の断片フラグメントの能力だね」

「それは、どういったものなんですか?」

「前者は私よりも更に分析に特化したもの。これなら暴走した時空間転移システムの状態を把握し、適切にコントロールする方法も解明できるはずだよ」


 恐らく、対象の用途や機能を理解せずに修復可能なマグの超越現象PBPと同じ。

 一から理論立てて積み上げるのではなく、一足飛びに把握してしまうのだろう。

 とは言え、確実に見つかる保証のないものだ。

 地道にやる方が逆に近道だったという可能性も十分ある。


「後者は能力を強化するものだね。幸い、私にも理解の断片フラグメントに似た力があるからね。それを増幅すれば受容の判断軸アクシス・理解の断片フラグメントと同様の効果が得られるはずさ」


 まだ見つかっていないものの力を頼みにしている割に、メタは妙に自信満々だ。

 何かしらの確信があるのかもしれない。

 そこまでは教えてくれないようだが。


「こんなところかな。だから君達には今日みたいにEX級アーティファクトの回収もお願いしたいんだ。残念ながら、この子は私が求める断片フラグメントじゃなかったけどね」


 後半小さめに呟きながら、視線を床に並べられた少女の残骸に向けるメタ。

 だから分析をした後、興味が薄れていたのだろう。


「とは言え、探索者の戦力としては有用だと思う。君達には一層遺跡探索に尽力して貰いたいからね。彼女のことは君の自由にしていいよ」

「は、はあ。ありがとうございます」

「何なら売ってもいいからね。じゃあ、これからもよろしく頼むよ」


 メタはそう言うと、話は終わったと机の奥に引っ込んでいった。

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