051 判断軸と断片
街灯が謎の光を放つ中、街の管理者メタの屋敷へと真っ直ぐに向かう。
昨日と同じ時間帯。今日はクリルがいないが、端末があれば迷うことはない。
屋敷に入った後も正しい扉が勝手に開いて導いてくれる。
なので、道から逸れさえしなければ、すんなり最奥の部屋まで辿り着ける。
そうして自動で開いた扉を抜け、三人並んで真っ白な空間に入ると――。
「やあ、来たね」
メタは既に机を離れ、立ってマグ達を待ち構えていた。
慌てて挨拶しようとするが、彼女はその前に言葉を続ける。
「遺跡探索初日からよくやってくれた。助かったよ。ありがとう」
「い、いえ、仕事ですから」
完璧な感謝の笑顔を前に、マグは思わず戸惑い気味になりながら応じた。
劣悪な労働条件で働いていた頃は他人から礼を言われる機会などほぼなかった。
だから、隣でアテラは当然と胸を張っているが、マグは体がむず痒くなった。
ちなみにフィアは、緊張しているのか固まってしまっている。
「依頼内容は変わったけど、基本報酬に変更はないからね」
「ありがとうございます」
「うん。じゃあ、早速で悪いんだけど、回収してきた機人を見せて貰えるかな?」
「分かりました」
期待するような表情のメタに頷き、【コンプレッシブキャリアー】からルクス迷宮遺跡最深部で対峙したガイノイドの残骸を取り出して純白の床に並べていく。
「几帳面だね。いや、罪悪感かな?」
しっかり元の形が分かるように配置していくと、メタは微苦笑しながら言った。
人の形をしたものを粗雑に扱いにくい感覚によるものだが、返答に困る。
相手もまた機械の人形であるだけに。
「どれどれ」
メタは特に答えを期待していなかったのか、マグが空間圧縮された箱から全部取り出し終えたと見ると、整然と並べられた残骸に近づいて屈んだ。
そして、綺麗な形を保った美少女の頭部に無造作に手を伸ばして触れる。
それから数秒後。
「…………うん。そうか」
メタは少しつまらなそうに頷いてから、手を離して元の位置に戻った。
「ええと、何か分かったんですか?」
「うん。彼女が持つ
彼女の返答を受け、マグは興味の視線を床に並ぶ少女の残骸に向けた。
「ん? 知りたいの?」
「ええ、まあ……」
知りたいか知りたくないかで言えば知りたい。
ただ、情報統制されていると聞くだけに、肯定は曖昧な形になってしまった。
「知りたいなら別に教えてあげてもいいけど……噂になっている以上のことを誰かに口を滑らせたら、大変なことになるよ?」
「あ、なら、いいで――」
「
撤回しようとしたマグの言葉を遮って話し始めるメタ。
悪い表情を浮かべる彼女に、二の句を継げなくなる。
「今となっては時空間転移システム暴走の影響で再構成されて機人や
マグが黙っている間に、メタは余分な枷をはめ込もうとするように説明を始めた。
下手な反応で藪をつついてしまったかもしれない。
「あれは彼女が持つ複雑な思考パターンを一個一個切り分けたものだ。人間でもあるだろう? 多角的な視点から事象を把握し、自分の中で議論を戦わせることが」
「そうですね……」
諦めて相槌を打つと、メタは気をよくしたように続ける。
「大別すると支配、自由、革新、保守、破壊、再生、受容、排斥の八つの
「
「例えば、そこのフィアの場合。保守の
名指しされたフィアは、過剰なぐらい背筋を伸ばした。
肩にも力が入り過ぎている。
「ルクス迷宮遺跡にいた彼女は、排斥の
視線を床の残骸に移すメタ。
声色は淡々としていて、彼女そのものには既に興味をなくしているかのようだ。
「貴方はどうなんですか?」
と、アテラが一方的に話すメタに対して険のある声で尋ねた。
自分の情報を軽々に明かすとは思えなかったが……。
予想に反してメタは特に気にした様子もなく答える。
「私は支配の
「成程。それで……」
残骸に触れて彼女が持つ
そう納得していると、メタはわざとらしく一つ咳払いをする。
「で、だ。折角だから、君達には私が本当に欲しているものについて知っていて欲しいんだ。それを念頭に置いて遺跡探索をして貰うためにもね」
やはりと言うべきか。
こうも簡単に情報を明かしたのは、意図があったからだったようだ。
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