第35話
マユとデートできる権利を手に入れてしまった俺は、千花と不機嫌を直すことに注視した。
「真琴、やっぱりマユに乗り換える気なんだ」
「そんなことはないって」
俺は千花にそう言うが、千花は信じてくれない。しかたなく、俺は千花を後ろから抱きしめた。千花は、息を詰める。
「俺には、千花だけだから」
「本当なの?」
俺は、千花の指輪に口づける。
「この指輪に誓って、千花だけだから」
そういうと千花は赤くなった。
赤くなったが逃げようとはしない。
「もう……しょうがないな」
千花はそう言って、俺を送り出してくれた。
●
マユのデートすることになった。レストランに行って、マユはパフェを注文していた。俺に「あーん」していたが、俺は華麗に避けた。俺に「あーん」していいのは、千花だけだ。
「どうして楽しいことを分かち合ってくれないの」
マユは不満げだ。
「どうして楽しいことを分かち合ってくれないの」
マユのことばに、俺は口を酸っぱくして言う。
「俺は千花の許嫁だからです」
マユは、ならどうして本気で走ってくれたのよと言った。
「本気で走らないと失礼なような気がしたんだ。マユは、幼馴染で友達だから真剣にやんないと失礼なような気がしたんだ」
俺の言葉に、マユは茫然とする。
すると泣きそうな目で、俺を見た。
「そういうところすごく好き。なんで、あんた千花の許嫁になっちゃったの」
マユは、大きな声で鳴き始める。
俺はそれを恥だとは思わなかった。
大泣きするマユの声をいつまでも聞いていた。
それは、恋に破れた鳴き声だったから。
マユは鼻をすすりながら、パフェを最後まで食べきった。
俺は、マユのパフェの代金を支払う。それは恋が終わった値段だった。
「なぁ……俺のこといつから好きだったの」
最後に俺は、それを聞いてみたかった。
「小さい頃から。真琴はやるときはやる男だったから、小さい頃から好きになった」
マユはそう言った。
マユの様子はどこか清々しいように思われた。
「俺はそんな大層な人間かな。三人の人間に惚れられるような」
千花にマユ、京子さん。この三人に好かれているなんて、最大の幸せだ。でも、俺は参院にその幸せのお礼を帰せない。返せる人は一人だけ。それは、俺が選んだ一人だけだ。
千花だけだ。
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