第35話

マユとデートできる権利を手に入れてしまった俺は、千花と不機嫌を直すことに注視した。


「真琴、やっぱりマユに乗り換える気なんだ」


「そんなことはないって」


 俺は千花にそう言うが、千花は信じてくれない。しかたなく、俺は千花を後ろから抱きしめた。千花は、息を詰める。


「俺には、千花だけだから」


「本当なの?」


 俺は、千花の指輪に口づける。


「この指輪に誓って、千花だけだから」


 そういうと千花は赤くなった。


 赤くなったが逃げようとはしない。


「もう……しょうがないな」


 千花はそう言って、俺を送り出してくれた。


 マユのデートすることになった。レストランに行って、マユはパフェを注文していた。俺に「あーん」していたが、俺は華麗に避けた。俺に「あーん」していいのは、千花だけだ。


「どうして楽しいことを分かち合ってくれないの」


 マユは不満げだ。


「どうして楽しいことを分かち合ってくれないの」


 マユのことばに、俺は口を酸っぱくして言う。


「俺は千花の許嫁だからです」


 マユは、ならどうして本気で走ってくれたのよと言った。


「本気で走らないと失礼なような気がしたんだ。マユは、幼馴染で友達だから真剣にやんないと失礼なような気がしたんだ」


 俺の言葉に、マユは茫然とする。


 すると泣きそうな目で、俺を見た。


「そういうところすごく好き。なんで、あんた千花の許嫁になっちゃったの」


 マユは、大きな声で鳴き始める。


 俺はそれを恥だとは思わなかった。


 大泣きするマユの声をいつまでも聞いていた。


 それは、恋に破れた鳴き声だったから。


 マユは鼻をすすりながら、パフェを最後まで食べきった。


 俺は、マユのパフェの代金を支払う。それは恋が終わった値段だった。


「なぁ……俺のこといつから好きだったの」


 最後に俺は、それを聞いてみたかった。


「小さい頃から。真琴はやるときはやる男だったから、小さい頃から好きになった」


 マユはそう言った。


 マユの様子はどこか清々しいように思われた。


「俺はそんな大層な人間かな。三人の人間に惚れられるような」


 千花にマユ、京子さん。この三人に好かれているなんて、最大の幸せだ。でも、俺は参院にその幸せのお礼を帰せない。返せる人は一人だけ。それは、俺が選んだ一人だけだ。


 千花だけだ。

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