第34話

「マユちゃんをかけて勝負だ!」


 マユの元許嫁の和葉さんは、俺にそう宣言した。俺としては、マユとはあくまでお友達なので勝負をしてもという気分なのだが、この場ではそれをいうことも許されない。


「かけっこで勝負をしよう」


 俺はそう宣言した。


 俺の言葉に、和葉さんは眼をしばたかせる。


「かけっこ?」


「そう。早い方が、マユとデートする権利をもらう」


「私ごと貰っていいのよ」


 マユがいらないヤジを飛ばす。


 そういうこというと千花が不機嫌になるからやめてほしい。


「俺、結構早いから」


 俺はかかとで地面をたたく。マユと一緒に練習したせいもあるが、俺は走るのがちょっと得意になっていた。一方で、和葉さんの顔は曇る。


「走るか……走るのは」


 ちょっとと、和葉さんは言う。


 それでもひかないのは、マユの前で恰好をつけたいからなのだろう。


「じゃあ、スタートの声はマユが頼むな」


 俺と和葉さんは、互いにスタート位置につく。少し離れて、マユが立っていた。先にマユにタッチした方が、勝ちとなる。


「いくからね。よーい、スタート」


 マユの声と共に、俺は走った。


 マユと俺は物心つくまえからの友人同士だった。その友人に頼まれたから、俺は走っている。力はぬけないし、抜いてはいけないと思った。千花を愛するものとすれば、わざと負けるべきなのだろう。その方法も少し考えた。けれども、それはマユに失礼だとも思った。マユは俺を選んでくれた。だから、俺も全力で答えなければと思ったのだ。


「ゴール」


 俺の指先と指先が触れ合う。マユは、嬉しそうに笑っていた。


「くそ、やっぱりか」


 和葉さんは、足がすごい遅かった。


 彼は負けると分かっていた。


 それでも引かなかった。


「まぁ、マユ。デートしてあげれば」


 俺としては、それは十分に男らしい決断のようなきがするのだが。


「いやよ。私は、真琴とデートがしたいの」


 マユはそういって、俺の腕から離れなかった。

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