第33話

 勝負も何も、俺はマユの何でもないのだが。


 そういう俺の意見は誰も聞いてくれなかった。三日後に俺と和葉さんは、なぜか勝負することになった。何で勝負するのかは、いまだに決まっていない。簡単なものがいいのだがと思いながら、俺は千花の家に遊びに来ていた。


 通された千花の部屋は、あまり女の子らしくない部屋だ。青が基調になって小物がそろえられていて、いたるところに本が置いてある。将来動物関係の研究者になりたいと言っているだけあって、本棚で一番多いのは動物の本だった。


 そんな部屋で、俺は千花の椅子になっていた。この部屋に通されてすぐに座るように指示されて、俺の膝の上に千花が乗ったのだ。千花は小さいから乗っていても、俺の負担にはならない。むしろ、シャンプーの香りがして落ち着かないぐらいだった。


「やっぱり、信用ならない」


 千花は、俺を椅子にしてむすっとしていた。


「真琴はモテすぎる。私に飽きて、いずれよそにいくかもしれない。今のうちに、手を打っておかないと」


 千花は、そういうと俺の膝から立ち上がった。


 そして、何を思ったのかいきなり脱ぎだした。


「なっ、何をしてるんだよ」


 俺は、慌てて千花に服を着せようとする。


 だが、千花は負けじと脱ごうとしていた。


「どうして、脱ごうとするんだい?」


 俺の疑問に、千花は「だって勝てないかもしれないから」と千花は言った。


「マユの京子みたいな魅力的な女の子ばっかり真琴のことを好きになって、私は勝てないかもしれない。だから、既成事実を作りたくって」


 千花は必死に形相でそう言った。


 俺からしてみれば、千花の不安は余計なお世話だ。どんなに可愛い子がやってきたって、千花に敵うわけがない。俺は、千花が好きなのだから。


 だが、千花はむっとしている。


 俺のことを信じていない顔だった。


「本当に信じていいの」


「信じてもらわないと、どうにもならないよ」


 千花は脱ぐのを止めた。


 そんなことに、俺はほっとしていた。俺たちの関係に、それはまだ早いような気がしたのだ。いずれ――はとは思うが、今はまだ時期ではない。


「マユの元許嫁とは勝負するんだよね」


 千花の言葉に、俺は頷いた。


「なにで勝負するのか、まだ分からないけどな」


「どうして、勝負をするの?」


 千花の疑問はもっともだった。


 俺はマユとは、何の関係もない男子だ。なのに、なぜマユの元許嫁と勝負をするのか。


「俺とマユは幼馴染だ。だから、助けられるのならば助けてやりたいんだ」


 俺の言葉に、千花は納得できないような顔をしていた。


 だが、俺が意見を曲げないと分かると俺の鼻をつついた。


「しょうがないから、マユに貸してあげることにする」


 可愛らしい手放し方だった。


 俺は、千花の顔を見て頷く。


「じゃあ、絶対に勝ってくるからな」


 俺は、千花にそう誓った。


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