第25話

 京子さんとのデートする日になった


 京子さんはズボンスタイルの知的な雰囲気が漂う雰囲気でやってきた。大きな眼鏡もそんな彼女の魅力を前面に押し出していた。


「あっ。眼鏡なんですか?」


「そうなのいつもなコンタクトなんだけど、今日は本来の私を見てほしくて」


 京子さんは照れたように、目をそらした。俺も目を合わせられなくて、目を泳がせる。すると彼女の谷間に目線が行ってしまい、慌てて視線を上にやった。


「今日は、どこに行こうか」

 俺のデートの経験は二件だけで、両方ともイオンである。経験豊富とは言えないし、そこで京子さんが満足するとも思えなかった。


「ちょっと電車で遠出しませんか?」


 彼女が提案したのは、観光地化している海辺の町へと行くことだった。ここから一時間も電車に乗れば、そこに行ける。俺は、了承した。


「分かった。行きましょう、京子さん」


「あの、さん付けを止めてもらえますか。千花さんたちも、さん付けていないし」


 京子さんの言葉に、俺は困ってしまった。


 マユとは付き合いが長いし、千花は初対面が許嫁としての出会いだった。一方で京子さんは憧れの作家というイメージが抜けない。そのため、さんをつけてしまう。


「京子さんは俺にとって憧れな人なんです。だから、そのさん付けで呼んでもいいですか?」


 俺がそう尋ねると京子さんは、顔を赤らめた。


「そんな憧れな人だなんて……」


「俺のことは呼び捨てでもなんでもいいですから」


「呼び捨てなんてできませんよ!」


 京子さんは悩みに悩んで、結局俺は真琴くんと呼ばれることになった。


「京子さん、電車来ましたよ」


 二人に電車にのって季節は外れの海に向かう。それだけのことなのに、なんだかすごいロマンチックなことをしているように感じられた。


「それにしても、京子さんはどうして俺なんかを好きっていってくれたんですか?」


 学校で少しだけ聞いたが、それだけでは納得できていなかった。京子さんは、恥ずかしそうにうつむく。


「私、自分のファンの人にあったことがなくって。真琴君が初めて、ちゃんと出会ったファンだったんです。それで、こんなカッコいい子が自分の作品を呼んで「好きだ」って言ってくれてたんだと思ったら嬉しくなっちゃって」


 それで、好きになっちゃいました。


 京子さんは、そう言った。


 顔を真っ赤にしながら。


 その言葉に、俺まで顔が赤くなる。


「私、昔から引っ込み思案で許嫁とかの話もなかなかまとまらなかったんです。ここまできたら自分で決めるのかなと思って、それでもしも許嫁を自分で決めるならば真琴君がいいと思ったんです」


 京子さんの顔は、明るくほがらかだった。


 将来の夢を明るく語る顔だった。


「許嫁って……将来結婚するんだぞ。俺と上手くいって、将来結婚してもいいんですか?」


 ちょっと恐る恐る、京子さんに尋ねた。


 実のところ、俺は許嫁と結婚するというイメージがよく浮かばないのだ。千花のことは好きだが、結婚のことはよくイメージできない。


「イメージできますよ」


 京子さんはそう言った。


「私は今の仕事を続けて、真琴さんも仕事を見つけて、二人で共働きで暮らしていくんです。子供はいてもいいけど、しばらくはいなくてもいいかな」


 京子さんは、将来のことを語った。その具体的な言葉に、俺は尊敬の念を抱く。やっぱり働いているせいなのだろうか、彼女は将来の話を具体的にできる。


「すごいなぁ、京子さんは。俺は、三人に好かれてるのに誰とも将来のことを真剣に考えられない。想像できない」


「そんなものですよ」


 京子さんは、微笑む。


「私の想像だった、当たらないかもしれないですよ。現実はもっと厳しいかもしれません。でも、その厳しさを含めて真琴さんがいいんです」


 京子さんは、そういった。


「私、いつも自信がないから……真琴さんに自信を分けてほしいんです」


 京子さんは、そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る