第24話

 翌日、学校に行くと転校生が来るという話題で持ち切りになっていた。そんな子が来るのかは噂ばかりがはびこっているので、正確には分からない。俺は、なんとなくだが女の子であればいいなと思った。


 しばらくして、先生に連れられてやってきたのは京子さんだった。京子さんは昨日は髪を一つにまとめていたけど、今日は下ろしていた。そのせいなのか、昨日よりもずっと大人っぽい雰囲気だった。


「真琴さんに千花さん!」


 京子さんは、大きな目を見開く。


 そして、まじまじと俺たちを見つめた。


「一緒の学校だったんですね。うれしいです」


 引っ込み思案そうな京子さんは、顔見知りがいたことで嬉しそうだった。一方で、学生作家と紹介された京子さんへの興味がクラスメイト達の間で上がっていった。


「なぁ、どういう人だよ。知り合いなのか?」


 亮二にそう尋ねられて、俺は「昨日知り合ったんだよ。俺の好きな作家さん」と彼女を紹介した。本を読まない亮二は、へぇと分かったような分からないような声を上げた。


「そうです。昨日知り合ったばかりなんです」


 涼子さんも慌てて俺たちの間に入ってくる。


「あの、真琴さんの友人なんですか?」


 京子さんは、おずおずと亮二に尋ねた。


「ああ、友達!」


 亮二は、俺と肩を組み始めた。


こういうときに亮二はノリがいい。


「よろしくおねがいします」


 京子さんは頭を下げた。


「私は京子って言います」


「私はマユよ」


 マユも横から入り込んで、自己紹介する。


「あの千花さんと真琴さんのお付き合いって長いんですか?二人の仲っていいんですか?」


 京子さんは、いきなりそんなことを聞いてきた。


 俺たちは戸惑ってしまった。


「私、やっぱり真琴さんのことが好きです」


 京子さんは、そう言った。


 その言葉に驚く俺たちをよそに、京子さんは話を進める。


「だからどうか、昨日のことを真剣に考えてもらえればと思って」


「ちょっとまって。俺には、千花が……」


「どういうことになっているのよ」


 マユが、不機嫌そうにつぶやく。


「そんなことを言ったら、私の方がずっと真琴のことが好きなんだからね」


 マユがそんなことを言ったので、あたりりにはどよめきが走った。


「小さな頃からずっと好きだったんだから」


 マユは、頬を膨らませていた。


「私だけが知っていたのよ。真琴が、やるときにはやるやつだってことを。知っていたからこそ、大好きだったのに」


 マユの言葉に、俺は顔を赤くした。


 そんな昔から、マユに見てもらっていたなんて知らなかった。


「だから、誰にも渡したくなかったのに!」


 マユは、そう言って叫んだ。


「私も、です」


 京子さんも頷く。


「私も自分の作品に自信がもてなくて、でも真琴さんが好きって言ってくれたから」


 だから、京子さんは俺のことが好きになったらしい。


「でも、京子さんの作品を好きっていう人なんて、きっとたくさんいるよ」


 そうでなければ出版なんてされるはずがない。


 だが、京子さんは俺が褒めるまで自信が持てなかったらしい。


 俺は、京子さんに自信を与えた。


 だから、好きになった。


 一番付き合いが浅いはずなのに、俺は京子さんの気持ちが一番よく分かった。だって、自信がなかったころの京子さんは少し前の俺自身でもあったからだ。


「京子さん。でも、俺は千花のことが好きなんだ」


 千花は、なぜか胸を張った。


 俺の好かれていることで、余裕を持っているかのようだった。


「でも、私も真琴さんが好きなんです」


 京子さんも引かない。


「だったら、真琴が決めればいいのよ」


 マユはそう言った。


「私と千花、京子とまたデートして、三人のうちで誰が良いのかを決めればいいのよ」


 俺は戸惑った。


 だって、三人とデートしても最後には千花を選ぶのは決まっているからだ。千花も、どうしてそんなことになったのか分からず戸惑っているとうだった。


「京子もチャンスも何もなくて断られたのが悔しいんでしょう」


 マユの言葉に、京子は頷いた。


「はい。そうです」


「私だって、悔しい。私の方が最初から好きだったのに、真琴が千花に取られて。絶対に、このデートで取り返す」


 マユは、そう言った。


 マユの言葉に、俺は危険な香りを感じた。幼い頃からマユを知っているが、彼女はやると決めたらやる女である。一体どんなことをやるというのか、恐怖があった。


「千花が許すはずないだろ」


 俺はそう言った。


 そうであってほしかった。


「やろう」


 千花は、そう言った。


「私も、真琴のことが好き。その気持ちはよくわかる。それで、真琴のことを信じてる……信じていいよね」


 最後の言葉だけ。千花は弱気だった。


 俺は頷く。


「俺は、千花のことだけが好きだ。二人とデートしても、それは変わらない」


 俺は、そう断言した。


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