第22話

 京子さんと別れた後は、千花は不機嫌だった。


「真琴って、モテるんだな」


 千花が不機嫌な理由は、京子さんだった。京子さんにいきなり許嫁になるかどうか打診されたことが、よっぽど頭に来ているらしい。


「モテないって。今までの人生で、千花以外の許嫁はいなかったんだから」


 千花は「嘘だ」という目で、俺を見ていた。


 よく考えれば、俺はマユにも許嫁にならないかと打診されていた。ここ数日でモテ期がきたというのだろうか。


「真琴って、許嫁がいなくてもカノジョがいたんじゃなのか?」


 千花は、俺をにらみつけていた。


 千花は、俺がモテモテだと思い込んでいる。


「いないって。千花が、初めて」


「手を握ったのも?」


 それはマユが初めてだったりする。


「私は、全然モテなかったのに」


「それこそウソだろ」


「この外見は高校デビューしたから。中学校時代は、ダサい三つ編みにしてたし」


 千花は、自分で三つ編みをつくってみせた。それでも、モテなかったというのが信じられない話だ。きっと周囲に見る目がなかったのだろう。


 俺がそんなことを思っていると、千花はつないでいた手を引っ張った。


「お腹すいた。何か食べに行こう」


 さっきの店では飲み物しか注文しなかった。言われてみると、俺も腹がすいていた。


「イタリアンレストランにする?」


 俺は、有名なチェーン店の名前を挙げる。


「それって、マユとも行ったところ」


 素直にうなずくと、千花はそこにはいかないと言い出した。


 そのため、俺たちはラーメン屋へと入った。値段設定的にはレストランのほうが安かったが、ラーメン屋も無理があるほど高いというわけでもない。だが、初デートのごはんがこんなところで良いのかなとも思った。


「真琴と一緒ならば、どこでもいい。ただ、マユと一緒のところはやだ」


 そうはっきりと断言する、千花。


「それにラーメン好きだし」


 千花はそう語った。


 二人でラーメンをすすり、この後はどうしようかと思った。思えば、マユと一緒に練習をしたときはご飯の最中に告白されて、そのあとに千花に会ったんだっけ。


「そういえば、千花はどうして急に俺とデートしてくれる気になったの?」


 尋ねてみると、千花は少しだけ顔を赤くした。


「運動会のリレーを頑張ってるなって思って」


「へ?」


 それは意外な言葉だった。


「最初は帰宅部って聞いてたから、何にも頑張れない奴だと思ってた。けれども、運動会のリレーを頑張っているのを見て違うんだと思った」


 それで好きになった、と千花は語る。


 俺まで、顔が赤くなった。


 別になにかを努力することが初めてではなかった。それでも、何かを頑張ってこんなにも評価されたことはなかった。そして同時に、思った以上に千花に見られていたのだと思った。

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