第20話

千花は、手を差し出した。


 小柄な彼女らしい、小さな手。その手を、俺は襲る襲る握った。握っても壊れることはない。けれども壊してしまいそうだった。


「さぁ、CDでも見に行きましょう」

 

 千花はそう言ったので、俺たちはCDの販売コーナーへと行った。小さなCDコーナーには新譜が並んでいる。千花は、あまり興味なさそうにCDを眺めていた。どうやら千花は、音楽にはあまり興味がないらしい。俺は好きなグループの新譜が並んでいたので、手に取った。


「千花、このグループが俺は好きなんだ」


「へぇ」


 俺が好きだといったグループは、ここ最近有名になってきたグループだった。音楽番組にも出始めたから、千花も聞いたことがあったと思う。


「千花も聞いたことがあると思うよ」


 俺は、視聴コーナーに千花を引っ張っていった。そして、俺が買う予定だったCDを視聴させる。千花は眼を見開いて、音楽を聴いていた。


「聞いたことがある!」


 千花は、しげしげと俺の方をみた。


「こういう音楽が好きなんだ」


 千花は目をつぶって、聞いている音楽を口ずさむ。足先でリズムをとって、まるで音楽を作曲しているかのような光景だった。


「私は音楽を聴かないから、新鮮」


 千花は、そう言った。


「次は本屋に行こう」


 千花に引っ張られ、俺は本屋に向かう。てっきり買いたい本があるのかと思ったが、千花は俺の趣味が読書というのを覚えていたのだ。だから、千花は本屋へと向かった。本屋で、千花は俺の隣にずっといた。傍から見ていても自分の好きなコーナーに行きたいことは明白だったのに、我慢して俺の好みをしろうとしていた。


「ええっと、俺は割とホラーとかミステリーとか好きで。といっても、犯人とかは当たらないんだけど」


 言いながら、俺は新刊に手を伸ばす。


 好きな作家の新刊が出てたので、俺は少しうれしかった。今回はどんな話なのだろうかと、本をペラペラとめくる。今度のは愛憎が絡んだミステリーのようだ。一件の館内で起きる密室トリックが最大の肝となるらしい。今回の話も面白そうだ。お気に入りに作者の新刊は嬉しいが、新刊が好みだとさらに嬉しくなる。


「その作者が好きなのか?」


「ああ、好きだ。この人がデビューしてから、ずっと大好きだ」


 俺の言葉に、千花はむっとする。


 作者に大好きということぐらいは、許してほしい。俺にとっては手が届かない雲の上のような人だし、高校生作家ということもあって親しみも関しているのだから。


「その本……本当に面白そう?」


 俺にそう尋ねたのは、いかにも怪しい人間だった。声の高さから女なのだが、身長が高い。男としても高身長な俺と同じぐらいなのでかなりの高身長だ。その高身長の女は黒いコートにサングラス、長い髪をひっつめたいかにもな変質者スタイルだった。


「いや……その俺には面白そうに見えましたけど」


 高身長の女は、いきなり泣き出した。


「ありがとう。それって、書くの大変だったのぉ!!」


 泣き出した女に、俺は言葉を失った。


 女の泣き方はどんどんとヒートアップしていって、女はとうとう俺に抱き着いてきたのだ。


「離れて!」


 小さな千花は、俺から高身長の女を引き離そうとする。だが、女はしっかりと抱き着いてきて離れない。しかも泣き止まないので、俺は周囲から奇妙なぐらいに浮いていた。


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