第14話
「なに沈んでるんだ?」
亮二は、学校に来た俺にそう話しかけた。
「亮二……千花はすごい人だったよ」
「そりゃ、学年主席はすごい人だろ」
亮二は、あきれ返る。
そうだった、千花は学年主席でずっとがんばってきた。そんな俺が――頑張っていない俺が――彼女の許嫁になれるだなんて虫のいい話だったのかもしれない。
「千花は、将来結婚したくない人だった。自分の夢があって、それを追いかけていたいんだって」
「難儀な奴が、許嫁になったな。でも、元々はそういうものなのかもな」
亮二は、苦笑いした。
「自分のやりたいこと見つけて、夢を見つけて、夢を叶えて……結婚なんて、そういうのが終わって本来は最後にやることなのかもな」
亮二にも、許嫁がいる。
会ったことはないが、相性はいいらしくて喧嘩もしたことはないらしい。何事もなければ、その人と亮二は結婚するはずだ。でも、結婚する未来は決まっているのに、他の夢はぜんぜんきまっていいない。
「俺たちは最後に悩むべき問題をすっとばして、今悩んでいるのかよ」
はぁ、とため息をつく。
「そういえば、昔の人間は許嫁がどうこうなんて悩まなかったんだよな。羨ましいよ」
俺がそう言うと、亮二は首を振る。
「昔の人も案外同じようなことを悩んでいるのかもしれないぞ」
亮二は、そんなことを言った。
俺たちは、教室の端っこで遠い昔のことを夢見た。
「そうだ。なにか頑張りたいことがあるんだったら、運動会のリレーに立候補してみろよ」
なかなか立候補者がいなくて実行委員が大変そうだった、と亮二は言った。
「運動会のリレー?」
「そうこの学校では懇親会の意味も込めて、五月に運動会をやるらしい。それで俺が実行委員なんだが、リレーだけは枠が埋まらなくてな」
結局のところ、枠を埋めたいだけではないかと思った。
だが、亮二の言う通り俺は何かを頑張りたい気分だった。
リレーで頑張ったところで、千花に並べるとは思えなかったがそれでも何かをやりたい気分だったのだ。
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