第13話

書店コーナーに来た千花は、生き生きしていた。自分の大好きなものがここにあるといいたげであった。


「本が好きなの?」


「本が好きというか、図鑑が好き。今日は動物図鑑を買いに来たの」


 注文していたから受け取りにきたのよ、と千花は言った。


「動物が好きなんだ」


 俺は、千花を見つめる。


「ええ、珍しい動物が好き」


 千花は答えた。


 その顔は、少しばかり幸せそうだった。


「いつか動物学者になりたいの。そのために勉強している」


 千花は、まっすぐに俺を見つめる。


「その夢を邪魔することは嫌いなの。だから、許嫁も嫌い」


「俺は、邪魔なんてしない」


 俺はそう言った。


「むしろ、応援する。千花が、頑張れるように俺も応援するから」


「信じられない」


 ぴしゃり、と千花は言った。


「結婚したら家事とか育児とか、そういうものに時間が食われるわ。私は、そういうことをしたくないの。自分の夢を追いかけていたいの」


 俺は、くらくらとした。


 千花は、自分の将来についてものすごくよく考えている。


 俺以上によく考えて、許嫁というものに向き合っている。


「すごいな……」


 俺は呟いた。


 本屋の中で、千花は輝いて見えた。


 誰よりも自分の将来を考えて、努力している。そして、その将来に関係ない許嫁という制度はいらないと言っている。


 一方で、俺は将来の目標をなにも持っていない。


負けたような気がした。

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