第10話
疲れたマユと共に訪れたのは、チェーン店のレストランだった。イタリアンのレストランは安くてうまいことで有名だ。この店もイオンのなかに入っている店で、なかには親子ずれや俺たちのような学生カップルが大勢いた。
俺たちはパスタとピザをそれぞれ注文して、席に着いた。改めて真正面にマユが座ると、今日のマユのかわいらしさが際立った。
「おいしそうね」
頼んできたピザに、マユは舌鼓を打っていた。
俺もやってきたパスタを食べる。
「こういうところだとお弁当を持ってこれないのが、残念ね」
マユは、そう言った。
「料理できるの?」
俺が尋ねると、マユは頷いた。
「ええ、得意よ」
マユは、どこか得意げだった。
「よかったら、学校のお弁当をつくって持っていきましょうか」
「それはさすがに悪いよ」
許嫁同士でもないのに、と俺は断る。
マユは、ちょっとむっとしていた。
「でも、マユって器用だからお弁当も美味しいんだろうね」
俺がそう言うと、マユは嬉しそうにうなずく。
「私のことよくわかっているじゃない」
「そりゃ、幼馴染ですから。知らないことなんて、ほとんどないよ」
俺の言葉を聞いてたマユは、ピザを置いた。
生真面目な顔で、マユは俺を見つめる。
「たしかに、私たち許嫁同士じゃないけど互いのことをよく知っているわよね」
「そりゃあ、幼馴染だからね」
幼稚園の頃から一緒に育ってきた仲だ。
下手をすれば、親と同じぐらいに互いのことを知っているかもしれない。
「私たちの相性は悪くないと思わない」
「ずっと友人だからね」
相性が悪かったらずっと友人なんてことはないだろう。
「よかったら、私の許嫁にならない」
マユはそう言った。
俺は、驚いてフォークを落としてしまった。
「許嫁って」
「ほら、私って今は許嫁がいないでしょう」
「俺はいる!」
俺には、千花という許嫁がいた。
「その許嫁も、許嫁はいらないっていってるし。私と、新たに許嫁の関係になりましょうよ。私たちならば、きっと相性の良い夫婦になれるわ」
マユは、そう言って唇についたピザのかけらをペロリとなめとる。
俺はというと、混乱の余りに頭が痛くなっていた。
「ええっと……マユ。君は、俺のことが……――その」
「大好きよ」
マユは、よどみなく答えた。
「昔から、大好きだった。許嫁がいたから、今まであんまりアプローチができなかったけど……いまは私もフリー。あなたを私のものにしたくなったのよ」
いつものマユは、どこか幼い雰囲気が漂う女の子だ。
けれども、いまのマユは妖艶な女性になったような大人の雰囲気を醸し出していた。意識すれば、つやつやと輝く唇がいつもよりも赤いことに気が付く。今日のために施した口紅が、誘っているかのように赤い。
「マユ……その気持ちは嬉しいけど。俺は――千花が好きなんだ」
俺は思わず、マユから目をそらした。
見てはいけないものを見ている気分だった。
「……本当に好きなの?」
マユは、俺を疑うように見つめる。
「ああ、本当に好きなんだ。一目ぼれ。こんなことは初めてなんだ」
俺は、うっとりするかのように語る。
初めて会った時の千花。
その姿は、とても美しくって凛としたたたずまいだった。その風体に、俺はほれ込んでしまったのだ。
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