第9話

 次は映画を見に行くことにした。映画館は、イオンの最上階にあった。映画館のなかには、今上映されている映画のポスターがいたるところにはられている。その中に紛れて映画を見る上でのマナー向上のポスターもはられていた。


 見に行く映画は決まっていなかったが、これはあくまで明日の予行練習なのだ。どのような映画ならば、その後の会話が続くのかを知りたかった。


「マユは、なにがみたい?」


 映画は話題のアニメ映画やホラー、アクションに恋愛ものといったものがそろっていた。女の子と一緒に見るのならば、恋愛ものが良いだろうか。そんなことを俺が考えていると、マユはあれがいいと指さした。


それはホラーだった。


真っ赤なドレスを身にまとった女優の背後に黒い靄がかかったようなポスターが印象的だった。


「けっこう怖そうだけど大丈夫?」


 俺はホラー系は得意だが、マユが得意だとは思えなかった。なぜならば、幼稚園のお泊り会で「暗いのが怖い」と泣いていたからだ。だが、マユは胸を張る。


「今は明るいうちだから大丈夫」


 マユはそう言ったので、ホラーを見ることに決めた。


 この後に昼食を食べるのでポップコーンは買わずに、ドリンクのみを購入してチケットを買った。


「本当に大丈夫?遊園地のお泊り会で怖いって泣いてたことがあったよね」


 俺の言葉に、マユは怒った。


「それって、何年前の話よ。今の私なら大丈夫なんだからね」


 マユはそう言って、俺からチケットを奪い取った。


 マユの言葉に、俺は「それもそうか」と思う。幼稚園のことならともかく、いまなら作り物と分かっている映画で怖がることはないのかもしれない。


 映画の内容は、呪われた女優が次々と殺人を犯していくというストーリーだった。結構怖い話なので、俺はマユのことが心配になった。こっそりと隣を見ると、案の定彼女は震えていた。


 子犬のように震える彼女が可哀そうで、俺はそっと手を差し出した。俺の手に気が付いたマユは、差し出した手を握り締める。そのときマユが笑ったような気がした。


 気のせいだろうと思った。


 だって、スクリーンでは女優が最後の被害者を食い殺している。こんなときに笑えるほど、マユは怖いのが平気なわけではない。


 映画は、ラストに向かって凄惨さを増していく。


 それに伴って、マユの震えも増していった。


 結果、映画が終わったころにはマユはすっかり疲弊していた。

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