第8話

 土曜日、俺は早起きをして何を着るべきかを悩んだ。明日は、記念すべき千花とのデートである。何を着ていくかは非常に重要だ。悩んだ挙句、俺はジーパンとシャツというラフな格好に落ち着いた。


学生の身分では、あまり気張った場所にはいかないだろうという判断からだった。もしも、悪いところがあったらマユに指摘してもらおう。今日は、そのための練習デートだ。


マユとの待ち合わせの場所に行くと、彼女はおしゃれなワンピースを着て待っていた。髪もいつもと違って下ろされていて、どこはかとなく大人っぽい。あっ、メイクしているせいだと俺は気が付いた。


「遅い、減点十点」


 いきなりマユは、そんなことを言った。


 俺は、その言葉にちょっと戸惑った。


「時間ぴったりにきたんだぞ」


「五分前行動よ。まったく」


 マユは、手を差し出してきた。


 その意味が分からずに、俺は茫然とする。


「ほら、手をつないで。デートでしょう」


「でも、今日は練習で……」


 俺がごにょごにょと言っていると、マユは俺の手を掴んだ。マユの小さな手は、予想以上に温かかった。


「ほら、行くよ」


 マユは、そう言った。


 俺は、マユに促されて歩き出した。


 マユとはショッピングに行く予定だった。ショッピングといっても俺たちが住んでいる場所にはイオンぐらいしかない。高校生の定番のデートスポットであり、主婦の買い物コースであるイオン。そのイオンに俺たちは入りこもうとしていた。


「まず、洋服でも見ましょうよ」


「おう」


 マユに言われる通り、俺は婦人服売り場へと向かった。たくさんの煌びやかな服に、今日はデートをしているのだという自覚が強まる。


「ねぇ、似合う?」


 マユは洋服を押し当てて、俺に見せてくる。可愛らしい洋服に、可愛らしいマユ。似合うよ、と俺が言うとマユは嬉しそうだった。


「あっちの服もいいなぁ」


 マユはそういって、俺と腕を組む。


 彼女の胸が俺の腕にあたり、シャンプーの香りが鼻孔に届く。マユが近くにいるのだと実感できる感覚。その感覚に、俺はどきどきしていた。


「次は、真琴の服を身に行きましょう」


 マユはそう言って、紳士服のコーナーへと俺を連れていく。


 そして、見繕った服を俺に充てる。


「今の服もいいけど、こっちの服もいいと思うわ」


 そう言って、選んでもらった服を試着してみると俺が今着ている服よりも足が長く見えた。マユは趣味がいい。


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