第5話
俺は亮二を連れて、千花の元にやってきていた。千花は驚いていた。放課後、千花がいたのは図書室だった。図書室で彼女は勉強していた。学年主席なのにまだ勉強する必要があるのかと俺は不思議に思った。
「どうしたの?」
千花は驚いていた。
俺は、亮二を千花の前に突き出す。
「俺と許嫁になるのがいやだったら、亮二と許嫁になればいいだろう」
そう言って亮二を突き出すと、千花は嫌そうな顔をした。
「私は、誰かと許嫁になること自体がいやなの」
千花は、そういって亮二を押しのける。
そう言われて、俺はちょっと救われたような気がした。俺自体が嫌なのではなく、誰かと許嫁になることが嫌だったのかと。俺は嫌われていなかったのかと。
「どうして、私のことを気にするのよ」
千花は、頬を膨らませていた。
その子供っぽいしぐさに、俺の心臓はどきどきしていた。可愛らしいと思ってしまったのだ。そのとき、俺は自分の思いを自覚した。
俺は、千花に恋をしていたのだ。
きっと初めてあった、その日から。
「……だから」
俺の声は、小さかった。
俺自身でも、聞こえないほどの大きさだった。
「なによ……」
千花は、俺をにらみつける。
俺は拳を握り締めて、勇気を振り絞った。そして、今ここで話してしまっても何も変わらないのだと自分に言い聞かせた。俺は、自分の思いを口に出した。
「好きだから。千花のことが、好きだから」
その告白に、千花はぽかんとしていた。
「数回しかあったことないのに……」
「たぶん、一目ぼれ」
俺は、最初に千花に出会ったときのことを思い出していた。
小さな体に、料亭に似合わない学生服。気の強そうな顔。そのすべてが俺の好みそのもので、恋に落ちるってこういうことなんだなと実感した。
「俺は、千花のことが好きだ。だから、どうして千花が俺のことを嫌っているのかが知りたい」
俺のまっすぐな言葉に、千花は息を飲んでいた。
そして、俺から顔をそらす。
見てみると、彼女の顔は少し赤くなっていた。
「こんなふうに……人に告白されたことってなくって」
言い訳じみた千花の言葉。
そんな言葉すら、俺は可愛いと思ってしまう。
「……私、将来は結婚したくないの。だから、許嫁はいらないかった。」
千花は、そう言った。
その言葉に、俺はほっとしていた。
「でも、親たちは私に許嫁ができてほしい願っている。だから、真琴の許嫁になったの」
俺の許嫁になったのは、やはり親のためだったらしい。
俺も親に無理やり許嫁を作られた口であるので、千花のことをどうこう言えない。
「ふむ」
俺たちの言葉を聞いていた亮二は、深くうなずいた。
「二人の話を整理してみようか」
亮二は、そう言って俺を指さす。
「真琴は、千花のことが好き。それで、できれば許嫁の関係は続けたい」
次に亮二は、千花を指さす。
「千花は結婚したくない。それで許嫁の関係は続けたいが、仲良くはしたくない。そして、結婚する前に許嫁の関係は解消したいと思っている」
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