第3話

 千花は、同じクラスだった。高校生に上がったからなのか、彼女は長すぎた髪を少しだけ切っていた。それでも髪はまだ長くって、背中を覆い隠している。俺は眩しい許嫁の姿を眺めながら、ため息をついた。


 釣り合わない、と思ってしまった。


 俺はやりたいこともなにも見つかっていないしがない学生。千花はすごい勉強ができる美人。よっぽどの自信家かバカでしかなければ、彼女と自分が釣り合っていると考える野郎はいないだろう。俺は自信家でもバカでもない。俺と千花が釣り合わないことぐらいは知っている。


 千花は俺と同じように、クラスメイトに俺が許嫁であるとは言っていないようだった。受験の時期に決まった話であったし、千花は結婚はしたくないと言っていた。だから、周囲にも言っていないのだろうと思った。


「ねぇ、真琴。あなたと千花って、本当に許嫁同士なの。目も合わせないじゃない」


 マユにそう言われてしまい、俺はぐうの音もでない。


 亮二は「恥ずかしがっているだけだろう」とフォローしてくれるけれども、実際はそうではない。千花は、俺が許嫁であることを認めたくないだけだ。結婚はしたくないけど、許嫁は欲しい。それは、きっと親を安心させるための許嫁の肩書が欲しいだけなのだろう。


「もしかして、不仲なんじゃないの」


 マユは鋭い。


 鋭いマユは、俺を見上げる。


「だったら、さぁ……私と……いいや、なんでもない。さすがにズルいよね」


 何がズルいのだろうか。


「ねぇ、千花さん」


 千花が、男子生徒に声をかけられた。


 千花は美人だから、そういうことは何度かあった。けれども、そのたびに千花は上手く誘いの声から逃げていた。


 けれども、今回の誘いは何だか強引だった。


 千花の冷たい態度に男子生徒はめげることなく、話しかけ続けている。千花がかまってほしくないという態度をあからさまに出しているのにも関わらずだ。


「やめてやれよ」


 気が付けば、俺は千花と男子生徒の間に入っていた。


「なんだよ。お前は、関係があるのかよ」


 男子生徒は俺を睨んだ。


 俺は、何といえばいいのか少し迷った。


 けれども、これ以上の言葉はないと思った。


「千花は、俺の許嫁だから!!」


 千花は、俺を睨んだ。


 なんてことを言うんだ、とばかり。


 男子生徒は俺と千花を見比べて、言葉を失っていた。


「嘘だろ。許嫁って」


「本当だ!!」


 俺は断言する。


「勝手なことを言わないで!」


 千花の怒声が響いた。

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