第2話
「おー、今年も一緒のクラスか」
女の子に言われたらうれしいセリフを吐いたのは、三島亮二。俺の中学時代からの友人で、去年のクラスメイトでもあった。たった今、今年のクラスメイトともなった彼は何とも暢気な顔でクラスが定められた表を眺めていた。
「亮二に真琴。私も一緒のクラスよ」
そういって俺に抱き着いてきたのは、飯田マユだ。俺の隣に住んでいて、母親がことあるごとに小学校のころから許嫁が決まっていたと言っている幼馴染である。ツインテールが似合う幼い顔立ちのマユは、幼い頃から許嫁がいると言われても納得できる可愛らしさがあった。
「マユ、おまえ許嫁がいるだろうが」
会ったことはないが、マユの許嫁は年上の人らしい。その人から嫉妬されたくはないな、と思いながら俺はマユの体を引き離した。
「あ、許嫁の話だったら解消してもらったわ」
その言葉に、俺たちはびっくりした。
「本当かよ。たしか、その人って勉強ができる優良物件っていう噂だったじゃん」
たしか今は大学生だったよな、と俺は尋ねた。
「でも、何度もあってるうちに違うなと思って。親とも話し合って解消してもらったの」
マジか……と俺と亮二は呟いた。
実のところマユのような許嫁の解消は珍しいことではない。本人同士が話し合って、親を納得させれば許嫁なんていつでも解消できるのだ。
「それでさ、真琴はまだ許嫁がいないでしょう。真琴さえよかったら……」
ちょっと照れながら話す、マユ。
そんなマユの話を俺は遮った。
「あっ、俺は許嫁ができたんだ」
俺の言葉に、亮二とマユは驚いた。
「本当なの?」
マユは、俺に詰め寄る。
その視線は怖いぐらいに真剣だった。
「水臭いな、いえばいいのに」
亮二もそういう。
驚く二人に俺は謝罪する。実は、俺に許嫁ができた件は親以外は知らなかった。許嫁ができたのが、高校受験の時期だったのでなんとなく言い逃してしまっていたというのが主な理由だ。
「どんな人なんだよ」
亮二が、俺の肘をつついてくる。
俺はそれを止めさせながら、「美人な人だったよ」と告げた。
「珍しい名前だったら。千の花って書いて、センカって読むんだ」
俺の言葉に聞いて、亮二は眼を丸くした。
「そいつの苗字って、日比達か?」
亮二が指さした先には、千花の名前があった。
同じ高校だったのだ。
俺は、驚いた。実は千花とは、あの初対面以来合っていないのだ。携帯番号も交換しなかったから、親を経由しないと連絡の取りようがなかった。
「しかも、名前が一番上に書いてあるってことは主席でテストをパスしたのかよ。才女じゃん」
すべての生徒を見下ろすかのように、一番上に書かれた彼女の名前。その名前が、俺に許嫁なんていらないといった彼女の顔を思い起こさせた。
冷たい顔。
冷たいけど美しい顔だった。
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