第23話 君の名は。
僕たち夫婦には1歳3ヶ月になる息子がいる。
この子の名前決めには大変苦労した。
僕と妻は考えが合わないことが多いし、お互い譲ることをしないため、それはそれは時間がかかり、難航した。
妻は人に優しくなってもらいたいと願い、僕は強い人間であって欲しいと願う。
どちらも間違ってはいないし、親の願いというのは自分が苦労したことを子どもにしてほしくないという部分から来るものが多い。
どんな願いにちなんだ名前にするか、という話し合いを進めていた。
そんな折、妊娠5ヶ月になった妻が入院した。
妊娠悪阻(にんしんおそ)と診断された。
通常妊婦さんには悪阻(つわり)と呼ばれる妊娠初期に起こる吐き気や嘔吐といった症状があるが、妻はその上位互換でより強く激しい吐き気や嘔吐がある妊娠悪阻になってしまった。
口から水分を摂ることが困難となり、24時間繋ぎっぱなしの点滴により水分はなんとか摂った。
しかし、食事はままならず、食べては吐き、食べては吐きを繰り返した。
もともと痩せ型であった妻は体重が6kgも落ち、胎内の子どもへ送るための栄養を確保するのでいっぱいの状況だった。
その結果、早産の危険性が危ぶまれていた。
医師からは、出産まで絶対安静にし、口から水分が摂れなければ出産まで入院と言われた。
妻は毎日泣いていた。
笑ってお腹の子どもに話しかける微笑ましい妊婦生活ではなく、お腹の子どもに対して謝ってばかりいるようになっていった。
こんな弱い身体でごめんなさいと。
僕はそんな妻を見ていられなかった。
僕にとって強い人間であった妻が毎日下を向いて日々を過ごしているのである。
その時僕は気付いた。
妻は決して神ではなかったと。
無敵でもなんでもないただの人間であると。
人並みに傷つくし、泣きもする。
じゃあどうすればいいか。
簡単だ。
夫である僕が支える。
それから僕は、毎日仕事終わりに病院へ通い、妻の好きな雑誌や食べ物を持っていき、今日あった出来事やハッピーな話をたくさんした。偉そうに「足を揉め」と命令してくる妻に足裏のツボを全力で押してあげるサービスまでしたほどだ。
次第に妻は元気を取り戻してきて、子どもが産まれたらこんなことがしたいとかこんな洋服を着せてあげたいとか将来の話をするようになっていった。
「今度この子の名前決めの続きをしようか。2人とも案を持ち寄って話し合おうね。」
『そうだな。じゃあ今週の日曜日に発表しよう!ひとり1個考えておくこと!』
「私入院してて暇だからいくつも案出してあげるね!」
『それは多すぎて決められないかも!』
こうして、妊娠悪阻と戦いながらも息子の名前を決めるために動き出した。
次回、《神の子爆誕》
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