幼馴染が俺の服装に毎朝口出ししてくる訳 (花金企画 お題矛盾に寄せて)
携帯の着信音。
朝だ。でもって、これは幼馴染の
「おはよう。
続けて加奈は、学校に着ていく服を逐一俺に指図する。
これが大学に入ってからの俺の毎朝の苦行。
二年になったんだし、もういい加減やめて欲しい。
親元を離れて一人暮らし。
折角自由を手にしたのに、幼馴染の加奈が同じ大学、同じアパート、同じサークルにやってきた。
加奈の目が光っているなんて、親に直ぐチクられそうで嫌だ。
ところが、事態はもっと最悪だ。
なぜか毎朝あいつからLine電話が入り、俺の服装のチェックが入る。
あんたはセンスが無いから私が指導してやると言って、あの服にしろ、この組み合わせにしろとうるさい。
言われた通りに着ていかないと鬼のように罵られるのだ。
なんでこんなことに……
だが流石の俺だって一年も色々言われ続けたら、加奈の好みが分かってくる。
だから今日は先手を打って言ってやったのさ。
「今日は新歓コンパがあるからジャケット着ていけばいいんだよな」
そう言って完璧なコーディネートを伝える。
「どうだ! これで文句ねえだろう!」
ところが加奈の奴、沈黙してからこう言ってきた。
「今日はラフな飲み会だしジャケットなんていらないよ。いつものあんたのダサいTシャツにジーンズで充分だから」
「なんだよ。あのお気に入りのTシャツを散々コケにしたくせに今更何言ってんだ」
「別に、どうやってもあんたはカッコいい奴にはなれないんだから、もうどうでもいいかなって思って」
「ふざけるなよ! 俺は今日こそ自分の思ったコーデで行くからな!」
腸が煮えくり返ったので、そのままプチっと切ってやった。
怒り狂って言い返してくるかと思ったが、その後は静かだ。
静かで良かったのだが……なんかいつもと様子が違うぞ。
不気味だ……
溜まっていたうっぷんを晴らすべく、宣言通りのコーデで店へ行った。
加奈は既に来ていた。
俺にファッションをあれこれ指示するだけあって、あいつは流行に敏感でサークルの中でもダントツに可愛い。
だから幼馴染の俺の元へは紹介して欲しいと言う依頼がよくくる。
俺は朝の苦行を逃れたい一心で、せっせと彼女に紹介してきた。
加奈も楽しそうに話しているから、これはうまくいきそうと思っても、なぜか誰とも付き合わない。
理想が高すぎるのも考えものだなと思う。
そんな加奈、目が合うと案の定険しい顔になった。
ふっ! 俺はもうお前の言いなりになんてならないからな!
手近な席に着こうとした時、同学年の
「悠太君こっちこっち、一緒に飲もう!」
「お、おお」
そう言えば、最近瑞穂ちゃんによく声かけられるな。
にやけそうになるのを必死で抑えてクールなキャラを演じる。
飲み物をついでくれたり、食べ物をよそってくれたり、気配りできるいい子だなぁ~と思って見ていると満面の笑顔で言ってくれた。
「悠太君って、いっつもおしゃれだよね。今日もジャケット姿がカッコいい!」
「そ、そうかな。ありがとう」
いや、今までは加奈の言いなりだったなんて口が裂けても言えないな。
でも加奈のセンスは他の女子にも受けがいいらしい。
こんな俺が瑞穂ちゃんにカッコいいと言ってもらえたのは加奈のお陰か。
ちょっとだけ加奈に感謝の気持ちが沸いた。
ちらりと見ると、睨むような加奈の視線とかち合って焦る。
なんか、めちゃくちゃ不機嫌なんだが……
おかしいな。俺は今褒められたんだぞ。
お前のセンスのお陰でな。
だから自慢気な顔をしてもいいと思うのだが?
一次会が終わり二次会へと歩き出した時、隣に陣取る瑞穂ちゃんが囁くように聞いてきた。
「ねえ、悠太君って好きな人いるの?」
「えっと……」
思わず加奈の顔が頭を過った。
あんな口うるさい母親のような奴! ナイナイ!
ところが、あいつの顔がぴょこんぴょこん頭の中を跳ねまわる。
うう、うるさい!
自分で自分の頭を殴りそうになった時、俺と瑞穂ちゃんの間に滑り込んできた人影に弾き飛ばされた。
「瑞穂! 悠太はね、本当はダサダサな奴なんだよ。私が毎日服のコーディネート指導してあげたからカッコよく見えるだけだからね」
「加奈、それどういう意味?」
瑞穂ちゃんが疑わし気な表情になる。
「つまり悠太は私の理想の彼氏なの!」
「はぁ?」
大声で宣言した加奈。
顎が外れそうな顔をした俺。
俺はそのまま拉致られて、家へ強制連行された。
「ごめんね、悠太。私我慢できなかったの。あんたがモテモテになるの」
「それ矛盾してね? 俺がモテるようにお洒落教えたんだろう」
俺は苦笑しながら言う。
いつもの強気はどこへやら。
急にしおらしい加奈は別人のように可愛い。
「一緒に歩く時はカッコいい悠太がいいの。でも、他の人にモテモテは嫌なんだもん」
「めんどくさい奴」
加奈の顔が暗く沈んだ。
ざまぁだけど、やっぱ見たくねえな。
こいつの悲しい顔は。
だから素直に言ってやろう!
「ま、そんなお前が俺も好きみたいだけどな」
最高の笑顔をいただきました。
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