第3話
「こいつが件の幼竜だ」
ベルディがガインに連れてこられたのは、竜舎の離れにある小屋だった。
その幼竜は小屋の隅で丸くなっており、こちらには見向きもしなかった。
ベルディは一先ず、思いつく限りの疑問をガインにぶつけることにした。
「どうしてこの子だけ、離れにいるのでしょうか?」
「雄竜と雌竜は離れて育てるらしくてな。まあ、そんなことも古い書物を引っ張ってきて知ったことなんだが」
「あれは、怯えているのでしょうか?」
「そうだな。おかげで飯すら口にしない。もう何日もつかもわからん状態だな」
ガインは淡々と答えていたが、その口調には焦りや悔しさといったものが含まれていた。
竜への関心が低いベルディにとっても、この幼竜を心配するには十分すぎる状況だったのだ。ガインにとってそれがどれほどで、性別が違うなんて理由で自分が大したことをしてやれないのは、屈辱的とまでいえることだった。
もっとも、ガインでもこんな状況でどうすればいいのかを心得ているというわけではなかったのだが。
「私は、どうすればよいのでしょうか」
「それは俺にもわからない。とにかく、こいつに安心してもらうこと。そして飯を食ってもらうこと。これが最優先だろうな」
「そのためには……」
ベルディは藁をも縋る思いでガインを見つめたが、ガインは苦しい表情を崩すことはなかった。
「孵化したての幼竜から信頼を得る方法ならわかるが……おそらくはこの幼竜には通用しないだろうな」
それは自分のことを親同然だと思いこませる一種の刷り込みのようなものなので、今まで本当に親と暮らしていたこの幼竜にとっては無意味なことであろうというのがガインの予想だった。
「俺もこんな経験は初めてでな。限界が来たらさすがに口をつけるかと思っていたんだが……そう甘くもないらしい」
「他の竜が食べているところに一緒にさせたりするのはどうでしょう?」
「それはもう試してあるんだ。だが、駄目だった。ここじゃあ、人にも竜にも心を閉ざしてしまってるらしい」
「……」
それからも少し考えてはみたが、ベルディにはこれといった案が思い浮かばなかった。
突然目の前に現れた無理難題にベルディは頭を抱えたかったが、そんなことをしている余裕すらないのだということを目の前の幼竜を見てひしひしと感じるのだった。
騎竜兵団の紅い花 @YA07
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