だって、「あなた+努力=合格」でしょ?

なつみ

第1話


スマホ画面が光り、小春は通知で新着メッセージを読む。


「就活頑張って!小春なら大丈夫!」


お世話になっている先輩からだった。

小春の口から、ふう、とため息が漏れる。



就職活動を先に終えた先輩からの「大丈夫」はとても心強いし嬉しい。

それは他の先輩や友人たちに対してもそうだ。

「エントリーシートが通った」と言うと、「小春なら面接も余裕だよ!大丈夫だ!」と必ず言ってくれる彼らには本当に感謝してもしきれない。就活の先輩や同期であり大好きで尊敬する彼らに大丈夫と言われた私は本当に大丈夫なのだと謎の自信が湧くことも多い。就活が終われば絶対に、強制的にでも菓子折りを送りつけようと思っている。


ただ何を持って「大丈夫」なのか、と思うこともある。

大量のエントリーシートを読んで添削をしてくれたり就活に関してアドバイスをくれたりする先輩はいるものの(彼らには菓子折りと金一封と人生をかけての崇拝だ)、面接に関しては知り合い相手に練習したことはない。

そもそも面接の練習してもらうのって、なんか恥ずかしいし。


だから「小春なら面接も余裕だよ」と言われると、なんでそう思うの?と考えてしまう。




すると、再びスマホが新着メッセージの受信を知らせた。


「明日英検だ~やばい~」


親友からだった。私は彼女が英検に向けて頑張っていることは知っているけれど、何をどう頑張っているのかは知らない。単語はいくつ覚えたのか、問題集は何ページ解いたのか。

でも彼女が推し活動の時間を勉強にあてたこと、最近は直前の詰め込みのために大好きなSNSを休んでいることは知っていた。


「今まで頑張ってきたじゃん、絶対大丈夫だよ!私が保証する。」



彼女にそんな言葉を送って、はたと気付く。

私がいま送った「大丈夫」にだって、何の根拠もない。


私は彼女の勉強量を知らない。何にも知らない。もしかしたら本当に「やばい」のかもしれない。

でもあんなに大好きだった推しを、SNSを休んでまで取り組んでいるのだから。彼女が努力したのに最後まで実力を発揮できずに諦めたことなんて今までにないから。それに、なんてったって私の自慢の親友だから。


だから私は彼女に言う。

あなたなら大丈夫だよ、って。

ただの直感だけどね。


ねえ、絶対合格してきてね。



「また小春お得意の勘か~?でもありがとう」

彼女のメッセージを受け取り、それに返事をしようとスマホを操作する。


「勘じゃないよ、直感。こっちの方が何か良さげでしょ?」

そう打ち込みながら、予測変換に「直感」と「直観」が並んでいるのを見た私は手を止める。


そういえば「直感」と「直観」の違いって何だろう。


その違いを調べてみた私は打ち込んでいた「直感」を「直観」に変えて送信を押した。



なんとなく、なんかじゃない。

今まで彼女と過ごしてきた経験から私は「直観」を選んだ。

「直観」に当たり外れがあろうと無かろうと、今回の私の直観は必ず当たる。



親友とのトークを一旦閉じ、先ほどの先輩からのメッセージを開く。そして、このメッセージにはどんな言葉で感謝を伝えようかと考える。


「小春なら大丈夫!」


今までのどんな疑問も吹き飛んで、その言葉を心の底から信じようと思いながら。


これが先輩の直観であってほしいと祈りながら。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だって、「あなた+努力=合格」でしょ? なつみ @natsumi-sxxxkx7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ