第2話 告白は脅迫とともに

「比嘉、話したいことがある」

じとじとと雨が降っていたある日、昼休みにグループで飯を食べようとしていたところを、関戸一せきどはじめに呼び止められて、屋上手前の階段に連れられた。

「なに?いいんちょ……じゃなくて、一。話って?」

オレは持ってきた自作の弁当を階段で広げる。男子高校生にしては小ぶりな弁当箱に、きっちりおかずと白飯を詰めている。友達には、母親が作ったと言っているが。

「比嘉は、恋人がいたことがあるか?」

「は?」

仏頂面をひとつも変えずに、恋バナを始める気か。

「いたことはあるけど……何?」

答えて即、飯を頬張る。今日はなぜかめちゃくちゃ腹が減っていて本当は質問どころじゃない。

「今はいるのか?」

一は、美しくも威圧感のある無表情を近づけてくる。まつげが意外と長くて、どきりとした。それより口に含んだ飯を飲み込む時間くらいくれ。

「んん、今はいねぇ……って、なんだよさっきから、怖いんだけど」

「いや、少し気になって」

一はスマホをいじりだす。なんだか嫌な予感がした。急に食欲が減退していくのを感じた。

「これ、比嘉だよな」

見せてきた写真には、身を寄せてラブホテルに入っていく、おっさんとオレが写っていた。オレは絶句した。終わりだ、高校生活は少し早いが終わりを迎えたのだ。中学の時もそうだった。たまたま見かけたクラスメイトから生徒指導の先公にチクられて指導されたことがある。惨めなオレの収入と心の支えを取り上げられて、しばらく不登校になった思い出がよみがえる。飯を食う気力を失ったオレは、ひとつ、ため息をついて

「……そうだよ、悪いか」

絶望に震えた声で、開き直ることしかできなかった。この後に続くは説教か説得だと思っていた。しかし、一はこう言った。

「俺、比嘉のことが好きなんだ。付き合ってくれ」

「は!?」

「ん……?恋人としてお付き合いしてくれないかと言ってるんだ」

「言い直すな……!」

意外だった。普通に告白してくるとは思わなかったが、オレも一に興味はあるしいいかな……。だが、ここでふと気になる。

「付き合えないって言ったら、どうすんの」

恐る恐る聞くと、瞬間、いつもより真っ直ぐ鋭い目をして言う。

「言わせない」

「……」

「比嘉にとって都合の悪い事実の証拠もあるから、断られたら使わない手はないけど……」

一瞬の強い眼差しから一変、少し悲しそうな顔をして、本当は使いたくないとばかりに一は言う。脅して、さらに情に訴えるようなずるい手を使うやつだとは思わなかった、油断した。いや、いつも油断だらけなんだけど。オレのだめなところだ。


考える。一はオレが好きで付き合いたくて、多分援助交際をやめさせたいはずだ。しかも弱みを握って脅してまでオレが欲しいとなると、悪い気はしない。いや、ここで悪い気がしないのは普通おかしいんだろうけど。ただ、オレは愛にずっと飢えてきたから、目の前に差し出された愛に眩んでいた。

「……わかったよ」

「本当か?」

「うん、付き合う。けどオレ、収入それしかないんだけど。まぁ実家暮らしではあるけど、他は自分で払ってるし……」

初っ端から金の話をしてしまい申し訳なくなった。心配事項はそこだけだった。

「?俺の家に来ればいい。一人暮らしだから」

一は不思議そうな顔で首を傾げている。

「えっ……いや、本気で言ってる?いきなり生活費2人分になるんだぞ」

「費用は大丈夫だが、少し狭いかもな」

「そうっすか…狭いぶんにはかまわないけど」

大丈夫だと言うし今のところは気にしないことにしよう。長くなるとめんどくさいし、諦めた。

「とりあえずさ、もうすぐ昼休み終わるし教室戻ろうよ」

「ああ、そうだな。比嘉、明日空いてるか?」

「土曜日だし予定ないよ」

「じゃあ明日出かけよう。比嘉がうちに住むことになるなら、必要なものを買いに行きたいから」

今までで一番の笑顔(しかし一般的な笑顔には届いていない)で嬉しそうに言う一を見て、じわりと胸が締め付けられる。

「ん……わかった、明日な」


雨が上がって日が差した湿っぽい廊下を、少し気まずい思いで2人並んで歩いていた。

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